「久振りだねぇ![兄さん]!」
嫌味半分、怒気半分の口調でアレクが言う。
「やめろ・・・私はもう[ソート家]の人間ではない」
「[ソート家の人間ではない]?
駄目だよ、兄さん・・・今は貴方しか跡継ぎが居ないん だ・・・」
「黙・・・れ・・・」
声が掠れているのが自分でも分かる。
動揺?違う、怒りだ・・・でも、誰への?
「だって兄さんがパパやママ・・・ディーン兄さんを・・・」
「黙れぇぇっ!」
私はアレクに向かって手に在る光剣を振る。
アレクは落ち着いた感じでそれを躱す。
「何でだい?実の弟にそんな仕打ちはないだろう?」
「・・・私は・・・私は・・・っ!!」
私はアレクに向かって駆け出した・・・思考より先に身体が動いた。
私の中で何かが熱く煮えたぎっている様な感じだった。
「お前の兄では無い!兄である資格も・・・無い!」
言って光剣を振り降ろす、アレクも剣でそれを受け止める。
「僕達が何でハンターを殺してきたか分かるかい?」
何をいきなり・・・。
アレクは突然後ろに飛び去る、私はやや前につんのめり掛けた。
「全部あんたを呼び出す為さ・・・
[ケヴィン・ソート]をね!」
「・・・何!?」
私の・・・為・・・?
「どういう事だっ!!」
それまで静観していた狗愛が叫ぶ。
「僕達がハンターを殺していけば、いずれギルドから目を付けられる
いずれ強いハンターが僕らを始末しに来る・・・。
そうなれば後はそれを迎え撃ちながら待つだけで良いんだよ
・・・肉親殺しのケヴィンさんをね!」
「・・・そんな・・・理由で・・・」
私の中で沸き上がった感情・・・
それは悲しみではなく、[怒り]だった。
「何か言いたい事はあるかい?
最後の言葉くらい、言わせてやるよ!言え!」
怒りながらも屈託の無い笑みを浮かべるアレク・・・
それは昔の私の数少ないお気に入りの一つでもあった。
「・・・アレク・・・お前は・・・」
私はアレクの目をじっと見つめて言った
「お前は私と同じ過ちを犯す気か」
「なに・・・!?」
「私がやったことは・・・[ソート家]と言う物から逃げる為にした事だ
許されるとは・・・思ってなどいない」
「ならば死をもってその罪を清算しろ!!」
アレクは私に向かって剣を突き刺す・・・。
「・・・だけど、なぁ・・・アレク」
「な・・・馬鹿な・・・」
アレクは驚愕の声をあげた。
私はアレクの剣を<左手に突き刺して受け止めていた。
「お前がしている事は・・・
私を殺す為に、関係の無い者達を巻き添えにすると言う事だ・・・
あの時の私と・・・
[自分]を持てずにいた事を人のせいにして殺した私と・・・
[ソート家]から逃れる為に肉親を殺した私と変わらないのではないか!?」
・・・言い訳かもしれない、だが、罪の言い訳をしたいのではない。
まだ・・・取り返しがつく事を・・・アレクに・・・。
「だ・・・黙れぇぇぇ!!!」
アレクは剣を引き抜き、私の頭目掛けて振り降ろす。
私は・・・抵抗しなかった。
キィィン!
アレクの剣を、見覚えのある刀が受け止めた。
「ケヴィン・・・死ぬのはまだ早いぜ・・・!」
「こ、狗愛・・・」
その刀の主は、私の方を向いて小さく笑った。
「邪魔を・・・するかぁぁぁ!!!」
アレクは標的を狗愛に変え、斬りかかる。
太刀筋が微妙に揺れ、捉えに悔い・・・強い!
「ぐっ・・・!」
狗愛はアレクの剣を何とか受け止める。
数秒鍔競り合いが続いた後、二人は互いに後ろに飛びのいた。
「何故こんな男を助ける!?聞いただろう?こいつは・・・」
「やかましいっ!!!」
アレクの言葉を狗愛が一喝して遮る。
「なんで助けるか・・・なんて決まってるだろ!?」
狗愛はアレクに向かって剣先を向け、言い放った。
「・・・[仲間]、だからだよ!」
一瞬、その場が静寂に包まれる。
「仲間・・・だと!?」
「そうだ・・・どんな事があったかはしらないが
俺は此処に居るケヴィンしか知らないのでな!」
「狗愛・・・」
突然、アレクの笑い声が空洞全体に広がる。
「ハッハッハッハッハッ!
・・・仲間、だとぉ?お前も肉親殺しと同じだと言うの か!?」
「人は・・・殺しているよ」
狗愛の目が光を消して闇に包まれる。
あれは・・・初めて剣を交えた武術祭で見た目だ・・・。
「狗愛・・・落ち着け・・・」
「ケヴィン、手を出すな・・・どうしても・・・こいつは・・・」
「ははっ・・・そうか・・・あんたも人を・・・」
アレクの言葉に狗愛の目が一層深い闇の色に染まる。
「二人まとめてかかってきなよ!道連れは多い方が良いだろう?
人殺し同士、仲良くあの世に行きな!」
・・・言葉が終わった瞬間、狗愛の姿が視界から消え
次の瞬間にはもう既に刀の切っ先がアレクの喉元に突き付けられていた。
「・・・なっ!?」
「それ以上言えば・・・命は無いぞ」
よろよろと後ろに後ずさるアレク。
「・・・ど・・・どんなにいきがってもお前達は僕には勝てないよ!」
「何・・・貴様、どういう意味だ?」
狗愛の本気の口調にややたじろぎながらも言葉を続けるアレク。
「僕だって、まともにやってそこの肉親殺しに勝てるとは思わないさ・・・
だから、少々手を打たせてもらったよ!」
アレクが指を鳴らす。
すると私達が入ってきた入り口から誰かが入ってきた。
「・・・ア・・・アイヴィス・・・」
私は絶句した。
アイヴィスが先程斬った奴等と同じ出で立ちの男に抱えられていたのだ。
「大丈夫、気絶はしてるけど傷は付けてないよ・・・」
「アレクッ!貴様・・・」
狗愛は怒りが頂点に達したらしく
伝説に出てくる鬼神のように髪を逆立て、雷の様な声で怒鳴った。
「おっと・・・僕に少しでも触れればあの子は・・・がぁっ!」
もはや・・・聞いてなどいなかった。
私は有無を言わさずアレクを殴り飛ばしていた。
「お前は・・・私以下だ!!!」
「・・・なぐっ・・・たな・・・ふふふっ・・・」
アレクが笑いながら立ち上がる。
「・・・やれ」
アレクの言葉に反応してアイヴィスを抱えている男が彼女の首を締める。
「アイヴィス!」
私は全力を出して駆け寄ろうとした・・・間に合わないと分かっていても。
ガクッ!
地面に倒れこんだ・・・。
「そ・・・そんな・・・」
「どうして・・・」
「・・・何が・・・」
誰もがその状況を把握できなかった。
呻きもせずに倒れてしまったのだ・・・抱えていた男が。
「いやぁ・・・真打ちは最後に登場する・・・ってね♪」
いつの間にかアイヴィスと彼女を抱えていた男の後ろに居た彼は
言って自慢のナックルを上に突き上げ、ポーズを決めていた。
「「らせつ!?」」
私と狗愛は同時に彼の名を呼んだ。
「ちっ・・・まさかこんな展開になるとは・・・」
アレクは悔しそうに呟いて空洞の更に奥に走り去った。
「ま・・・待て!アレク!」
私は名前を叫んで追いかけるが、左手の傷が疼いて上手く走れない。
「無理をするな・・・ケヴィン」
「狗愛・・・
しかし・・・私は・・・」
もう一度アレクの走っていった方を見た時には、
彼はもう見えなくなっていた。
続く
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