「此処がアイヴィスの部屋・・・!?」
「そうよ、凄いでしょ?
言っとくけど、私がやったんじゃないわよ」
アケミさんはアイヴィスを抱えたまま振り向き、答える。
私が想像していた通り、大ざっぱな彼女の性格を表したかのような
掃除もろくにしてないような部屋・・・ではない。
とても綺麗に掃除がしてあり、窓などはピンクのカーテンが引いてある。
なおかつ、普段の彼女には似合わないような
ウサギやクマの縫いぐるみがそこらに・・・。
そこはまさに、[女の子の部屋]だった。
「アイヴィスって一体・・・」
「この子・・・ねぇ・・・」
アイヴィスをベットに寝かせたアケミさんが私のほうに振り返る。
どうやらアイヴィスは疲れと酒のせいで寝てしまったようだった。
「元々臆病で引っ込み思案な子だったのよ」
「ほ・・・本当に?」
思わず呟いた私の額を軽く小突くアケミさん。
「こらこら、仮にも女の子なんだからね?」
仮にも、ってそっちの方が酷い気が・・・。
少しジト目気味に見る私を気にもせず、彼女は話を続ける。
「・・・で、この子が変わったのはあんたが来てからよ」
・・・なんか話の展開が読めないのだが・・・。
「別にあんたを責める訳じゃないから安心して
むしろ、感謝すらしてるんだから」
「感謝・・・一体何を?」
「この子、いつも寂しそうにカウンターの隅で飲んでるあんたを見て
・・・何か同じ物を感じたんだろうね
「あの人を喜ばせたい」なんて言い出してね」
「・・・・・・」
私にとって初耳な事ばかりで、もはや上手く頭が回らない。
構わず話を続けるアケミさん。
「早い話、一目惚れ・・・かなぁ?
で、わざと明るくふるまって、一緒に騒いで、もう三年 ・・・って
訳さ」
三年・・・此処に来てもうそんなに経っていたんだなぁ・・・。
私が妙な感慨に耽っていると、突然背中を叩かれた。
「とにかく!面倒見てあげてね!
あたしは戻らないといけないから・・・後は頼むわね!」
「え・・・はい・・・・・・」
・・・・・・ん?
[後は頼むわね]・・・!?
「・・・え!?」
振り返ると既にアケミさんは居なかった。
・・・ハメられたな、これは。
「ん・・・えっと・・・あ〜・・・」
どうして良いか分からず、とりあえず近くにあった椅子に腰掛けて
今日起こった出来事を、一つ一つ整理した。
まず・・・ロートサイアの遺跡の調査をギルドに依頼されて
久々にチューリピオに帰ってきて大乱闘・・・。
訳も分からず言われるままにアイヴィスに・・・。
私は頭を抱えて深い溜め息を吐く。
「・・・なんか・・・無茶苦茶な一日だな、今日は」
「・・・・・・そうね・・・」
突然の声に振り向くと
アイヴィスがベットの上で横たわったまま目だけを此方等に向けていた。
・・・少し涙目に見えるのは私の錯覚・・・ではなさそうだ。
「起きてたのか・・・」
「アケミ叔母さん・・・絶対後で仕返ししてやる・・・」
アイヴィスは明らかにその気の無い声でボソッと呟く。
「そ、それより・・・具合はどうだ?」
私の言葉に顔を紅くして顔を背けるアイヴィス。
私もそれ以上は何も言えなかった。
しばらく黙ったままの状況を打破したのはアイヴィスだった。
「やっぱり・・・嫌だったかな?」
彼女は顔を上に向け、天井を見つめながら呟いた。
「・・・何が?」
私は分かりきっている事を聞き返す、まだ良く頭が回らない。
「私なんかじゃ・・・ねぇ?」
そう言って私の方を向くアイヴィス。
顔はもう普段の勝ち気な表情に戻っているが、目は何処か脅えている。
「・・・・・・そうでも、ないさ」
何故そんな言葉が出たのかは、今でも分からない。
「え?」
アイヴィスは本気で驚いた顔をして、私のほうをじっと見る。
「・・・とにかく、今は休む事だ」
私は小さく微笑み、そして彼女に背を向け、部屋のドアを開けた。
店の方に戻ってみると
私の方をじろじろ見る者も、もはや数人しか居なかった。
・・・と言うか、大半の客は他の店に移動したのだろう。
私はカウンターに座って何の気も無しに普段より人気の少ない店内を見回した。
「ん?」
私の視線の先に見覚えのある影が一つ・・・。
「よぉ、ケヴィン!」
「こ・・・狗愛!?」
狗愛は手に酒の注いであるコップを持ってカウンターの隣の席に座る。
・・・まさか・・・まさかね。
「どうしたんだ?こんな所にまで来るなんて」
「こんな所、は失礼じゃない?」
声に驚いて振り向けばアケミさんが私の目の前のコップに酒を注いでいた。
「た、確かに・・・こんな所、は無いな・・・うん・・・うん・・・・
・・うん・・・」
一人で納得してうんうん言っていると
アケミさんが私に冗談半分に聞いた。
「そう言えば、結構遅かったわね、アイヴィスの部屋から戻るのが・・・
何かあったのかしら〜?」
(あ・・・あんたが[後は頼む]なんて言うからだろうが!)
よっぽど言ってやろうかと思った言葉を飲み込み、酒を一口飲む。
「アイヴィスってさっきのお前が助けた子か?」
・・・あぁぁぁぁ、やっぱり・・・。
狗愛がニヤニヤしながら放ったその一言に
私はテーブルに突っ伏してしまった。
「と、とにかく・・・用件は?」
ようやく落ち着いた私は、狗愛に本題を切り出すように催促した。
彼が私を探している時は、大抵仕事に関する事があるからだ。
「そうそう、話があるんだ
あの子とは恋人の関係なの・・・かぁぁぁ・・・」
私は狗愛の首を反射的に締めた。
「そ・れ・以・上・言うなぁ・・・」
「わ、分かった分かった!」
私はゆっくりと手を放す、狗愛はゲホゲホと咳込みながら息を整えた。
「まぁ、お前さんをこれ以上からかっても仕方ないしな・・・」
「ほぉ〜・・・また地獄を見たいか?」
「俺が行くのは天国さっ」
「・・・ふっ・・・ふふ・・・」
即答する狗愛にもはや怒りも薄れた私は、苦笑しつつ話を聞くことにした。
「とにかく、話してくれ」
「ああ、例の盗掘団の話だ」
その言葉にさすがに私も真剣な顔に戻る。
・・・ん?
「・・・団?」
「ああ、一人〜二人の盗掘家にあんな事は出来ないとふんで
そっち関係を調べてみたら、見事ビンゴだ」
言って狗愛は私に資料を渡す。
「これは・・・」
「盗掘団[レグナルーク]・・・
数年前から急に現れた、ほとんどが謎のチームだ」
チーム・・・か、しかし・・・。
「しかし、何だってそんなチームの情報が?」
「なーに、俺とらせつとで囮捜査さ
相手は五人だったが、何とか撃退出来たよ
で、その中の一人を捕まえて・・・な」
あ、危なっかしい事を・・・。
「そうか・・・となると、後は事実の確認だな」
「そう言うことだ、行くか?」
「勿論だ!」
首を縦に振る私を狗愛は真剣な目で見て一言言った。
「・・・しかし、愛しい彼女を置いていっていいのか?」
今度こそ私は、何かが見える寸前まで狗愛の首を締め続けた。
・・・その時、私をじっと見ていた者が居た事に気付いていれば
この後、あんな騒動は起きなかっただろう。
続く
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