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岡本が発狂したのが午前5時頃。
私は岡本の後頭部から、うなじにかけてを丁寧に
撫でさすった。
「やめなさい。岡本」
母親のように叱ってみる。効果はあまりない。
「鳩がくるんだよ」
岡本がテレビのリモートコントローラーを
握りしめながら、言った。
「鳩ってなによ」
リモコンを静かにとりあげる。
内心では面倒くさいのだけど、落ち着くまでは
放って置くことは出来なかった。
トイレに行きたくなった。立ち上がってトイレのドアを
開ける。便座に坐った。
「手古ずらせないでよ。あたしだって疲れちゃうよ」
小さい声で呟いた。
リビングに戻ると岡本の姿がない。
音が聴こえる。
岡本は、台所にいた。
包丁を持って、こっちをみていた。
「もう俺、厭になっちゃったよ。こんな関係」
岡本が笑った。
私は玄関のドア目掛けて走った。
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