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戸惑いを隠すことを出来ないでいた。
小鉄は死体を湖に沈めてやりたいといって、
はばからない。断固としている。
なぜ、そんなことに固執するのかが、わからない。
隠蔽するのならば、埋めるほうが確実だ。
深く穴を掘って埋めてしまえば、
どんなにか気分が楽になるのだろう。
それなのに、小鉄は、
湖に沈めてやるんだと、わけの分からないことばかり
言いやがって。俺は、すごく動揺していた。
焦っていた。死体を遺棄することを、その死体の存在を
忘れるぐらいに、深く、深く、深く穴を掘って
埋めてしまいたかった。
安穏にかまえて、水遊びをしながら
沈めてあげるからねと呟いている小鉄のことを、
俺は、正視することが、出来なかった。
身近な友達が狂っている。死体に話しかけている。
その時、小鉄が振り向いた。
「僕はね、隠蔽する気なんてないんだよ。
太郎くんの心は丸見えだ。少しがっかりした。
だけど、僕は僕のやり方でいくから」
小鉄の顔は、やや青白い。
朝の空気が新鮮に思えた。


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