<3>
先程から、ひっきりなしに煙草を喫んでいる。
二階堂小鉄のやって来る気配はない。
昨日の電話では、相当に慌てた様子で要領の得ない
ことを言ったあと「AM1:00に迎えにいく」
と言って、唐突に電話は切られた。
全く訳がわからなかったのだが、仕方無いので
指定された場所で俺はこうして待っている。
春にはなったけれども、結構寒いじゃねぇかと
思っていたら、小鉄の車がいつの間にか止まっていた。
「おもわず、蛇行運転しちゃったよ。待った?」
あらぬ方向を見つめながら、喋っている小鉄は
明らかに挙動不審だった。
「どうしたんだよ、遅かったな」
俺が話しかけても小鉄はもじもじしている。
小鉄の体重は120キロだ。
「まぁ、乗りなよ。訳は後で話すから」
「いま話せよ」
「死体積んである。とにかくはやくなんとかしたい」
小鉄の額には、脂汗が浮かんでいる。
「死体ってなんだよ。誰んだよ」
「太郎くんは知らないと思う」
小鉄は居直ったのかバックミラーを調節している。
車のドアを開けた。異臭がする。
「臭えな。なんで死んだの?」
「僕が押し潰した。多分、圧迫したから死んだんだよ」
アクセルを踏みながら、小鉄が説明した。
「意味わかんねえな。なんで圧迫したの?」
「セックスしてたら、気づかないうちに、僕の胸の
下敷きになってたみたい」
「無茶苦茶だな」
夜の道は空いている。小鉄の運転は巧みだった。
「どこ行くんだよ」
「S湖」
聞きとりにくい声で、
小鉄は「沈めるんだよ」と言った。
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