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指にかけられた力はゆるんでいた。
まあ、それは喜ぶべきことだが、素直に喜べなかった。
目の前に少女がいる。
笑っている。
が、目は笑っていない。
「あの……、いまのちゃい……」
くすりと少女は笑いながら、ゆっくりと格納庫内を見回す。
ふと、視線が格納庫の一角でとまった。
「あー、あそこがいいや。あそこならどんなに叫んでも外に声が洩れないし、邪魔も入らないだろうから」
そことは、格納庫の一角にしつらえられた倉庫だった。
おそらく、シャトルの資材その他が、しまわれているのだろう。
「いやー、父さま〜、母さま〜。こーろーさーれーるー」
「だいじょーぶ、殺さないよー」
無邪気に少女は応える。
「ただ死んだ方がましっていうくらい惨い目にあわせるだけだから、安心して♪」
「いやあああああああ」
少女は娘のおさげを掴んで、ひきずるようにして倉庫の方へと進む。
そして……。
少女はしずかに扉の前で立ち止まっり呟く。
「ゆ…び?」
「指?」
そう、指。
ドアとドアの隙間。
指が四本、中からはみだしていた。
錆色の四本の指。
あきらかに人のそれではない、それ。
「え?」
ゆっくりと開く。
何かが、その内側から無理にドアをこじ開けようとしているのだ。
ドアの間その向こう。
闇の中赤い瞳(?)が輝く。
「こんどはなんなのよ〜」
娘はよろよろと立ち上がり、そして叫んだ。
「J・B!なんでここにお前がいるの!?」
まるで、その声に応えるように黒塗りの銃身が、扉の隙間から顔を出す。
インフェルノバズーカと呼ばれる重火器だ。
弾速は遅いものの、威力は抜群だ。
小さく悲鳴をあげて、謎の娘は地面をころがる。
少女もまた、射線を避けるように、右に大きく転がる。
次の瞬間、扉が大きく悲鳴をあげた。
中にいるJ・Bと呼ばれたものが、まだ隙間が十分でないのに無理矢理そのみを、隙間にねじこんだのだ。
ひしゃげゆがむ扉の声をJ・Bは黙殺し、青い服ニューマンの少女ただ一人を標的に、睨み据える。
「殺す!」
「あんた、なんでここにいるの?J・B!!」
「お前を殺すためだ!」
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