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……なんでお前がここにいる?
……お前を殺すため。
質問の応えは明快で、誤解のしようのないものだった。
扉が倒壊し、J・Bと呼ばれた錆色巨体が、少女と謎の娘の眼前に転がり出る。
その姿は、巨大な類人猿をおもわせるアンドロイド。
戦闘用の自立型アンドロイドだ。
「死ね!」
静かに気迫をこめて引き金をひく。
着弾。
そして爆発。
だが、爆炎の向こうには、少女の姿も死体すらない。
J・Bは首を巡らせ辺りを見る。
「どこだ……」
格納庫内には、これといった隠れ場所はない。
強いていえばシャトルの影だが、少女のいた辺りからだとそれなりの距離になる。
とっさに身を隠したとしても、J・Bの目に見咎められずに、隠れるのは不可能だ。
「J・Bなんでこんなまねするのよ!」
「……あの女は俺を殺した……そう、これは復讐なのだ」
「俺?え……なにいってるの?バグったの?」
「奴が殺した俺が頭の中でささやくのさ……、あの女を殺せとただ!ただ!」
J・Bは上を向く。
天井にあるのは、シャトルの整備のために存在する室内クレーンと、そのレール。
「くそっ、どこだ?」
少女の影すらも見えないことに苛立ちながら、J・Bはゆっくりと首を巡らせながら歩き出す。
「ちょっと、まちなさいJ・B味方同士で殺しあうきなの?」
謎の娘は叫んだ。
「味方同士?」そして振り向き「あの女と俺と俺は敵だ!」
「なんですって?」
娘はいらだったように問い返す。
「あの日、そう1年前あの女が俺を殺したあの日から、俺とあの女は敵だ!」
その叫びが合図であったかのように、巨大な轟音が、格納庫に響きわたる。
「えっ、え?何、何なんなの?」
突然のことに混乱したように、騒ぐ娘。
だが、J・Bは落ち着いて、その音源を確かめた。
「エアロックへの扉を開けただと?一体何のまね……」
次の瞬間、J・Bの真上で、爆音が響いた。
「うな!?」
移動式クレーンのレールが一塊になって自分目掛けて落下してくるのをJ・Bは恐怖をもってまじまじと見つめる。
「うおのおれえええ」
その怒りの声すらかき消すように、レールはJ・Bを押し潰し激しく床と接吻を果たした。
そして、静寂。
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