第1章 眼下の楽園


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 かのセントラルドームの大爆発からもう1週間の時が流れすぎていた。
 町の各所で、真実ともデマともすぎない、噂が人の口の端にのぼり、そして消えていく。
 パイオニア総督府の前に、情報の開示を迫る民間人の一団と、軍人が押し問答をくりひろげているさまも、だんだんと見慣れた光景になりつつあった。
 テレビのニュースはあきもせず、あのセントラルドーム爆発の映像をくりかえしながし。
 総督府の批判を声高に叫んでいる。
 あとにまつのは、暴動か総督府による情報規制……。
 「またはその両方……」
 青年は静かにつぶやく。
 地上探索のため、何度も転送装置の受信機が打ち込まれたが、かんばしい成果は得られてないらしい。
 まるで、何か大いなる意志が、パオニア2の人々進入を拒んでいるかのような、そんな漠然とした思いがふと、青年の脳裏ををよぎった。
 ……たぶん、こんなことをアイツに真面目に話したら、何言われるか分かったもんじゃないな。
 青年は心の中で独白し、苦笑をもらす。
 とりあえず、大いなる意志とかそのたもろもろの、ファンタジーめいた感傷は横においておくに限る。
 感傷など、1銭の価値もない。
 そのことは、この10年余散々理解してきたはずだ。
 「………って、こんなところが、感傷的って奴なんだよな」
 青年は再び苦笑し、パソコンの画面をみつめなおした。
 とにかく今は、情報を集めつつ、状況が動くのを待つ。
 それが、最良だと思う。
 ……まあ、あいつなら無理にでも状況を転がそうとするかもしれないな……。
 ふと心の中でつぶやき。
 そして、不安になる。
 「……静かだな」
 青年は立ち上がり、部屋の中を見回す。
 「いない」
 寝てるのだろうか?
 などとおもって寝室を覗いたが、カラッポだった。
 風呂?
 やはりいない。
 トイレ?
 ノックしても返事はない。
 とりあえず、家にはいないのはたしかなようだ。
 まあ、クロゼットの中に隠れている可能性も、考えられるが、そんなことする理由もないから……。
 とりあえず、思い直してクロゼットの中を確認。
 「理由が無いからといって、しない理由にはならないからなあ」
 が、やはりいない。
 「……まったくどこにいったんだ?あのバカ……」


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