序章 その日太陽がのぼった。

 ……その日太陽が昇った。
 それがすべての始まりだった。
 
 その日、移民船パイオニア2はお祭り騒ぎだった。
 長い、長い、航海〜宇宙船の旅をだから航宙か?〜が、終わろうとしている。
 その喜びに沸き立ち、どこかみな熱に浮かれたように大騒ぎしている。
 老いも若きも、男も女も……。
 新たなる新天地にでの成功と幸福が約束されていることを、うたがいもせず。
 ただ、ただ、喜び浮かれている。
 連日の放送も、このパイオニア2の目的地、ラグオルのすばらしさを伝えている。
 宇宙の楽園……!
 神に約束された地……!
 乳あふれるほうじょうの大地……!
 「そして、そんなすばらしき土地を、我々は土足で踏みにじるというわけねえ」
 そう、誰かがパイオニアの片隅にでつぶやく。
 「……まあ、悪意をこめていえば、その通りだな」
 と、その発言者を見下ろし、青年は言った。
 「もうすぐだよ」
 小悪魔めいた微笑みを浮かべ、彼女はその全身を、青年の膝に預ける。
 端からみれば、仲睦まじい兄弟が、公園の片隅のベンチで仲良くじゃれあてるように見えただろう。
 まあ、種族の違いを目をつぶれば……という、注釈が必要だが。
 「もうすぐ、『オモシロイコトガ、オキル』よ」
 「……それは予言か?」
 青年は、そっと自分にそのすべてを預ける彼女の、頭を撫でながら問い返す。
 「ううん、予感」
 「予感……ねえ」
 「そう」
 彼女はゆっくりと身をおこし囁いた。
 「絶対におきるよ。『オモシロイコトガ』」
 青年、エースワイルドは妖しく笑う小悪魔からその目を逸らし、公園の中央。歴史的瞬間とやらを写すテレビに目を向けた。
 そう、いままさにラグオルに建造されたセントラルドームと、パイオニア2のレーザー回線がひらかれようとしていた。
 そして…。
 …そして…。
 そして、光。
 それは、まるで輝く太陽のようであった。
 美しき白光。
 それはセントラルドームを飲み込み、ただ白く全てを飲み込む。
 一瞬の沈黙。
 そして悲鳴と怒号。
 その時、真実を冷静に見極められたのは、何人いただろう?
 誰かが笑う。
 鈴のような愛らしい笑い声。
 「ね♪『オモシロイコト』がおきたでしょ?」
 そう、彼女はエースワイルドを見上げ囁いた。


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