10
錆色の鉄の塊がまっすぐ駆け込んでくる。
先手は、J・B。
その手にはランチャーはない。
……なくしたか、壊れたか。またはそのふり?
計算しつつ彼女はJ・Bが放つ一撃をを避け一歩とびのく。
さらに一歩踏み出しての正拳突き。
つづけて、その巨体に似合わぬ派手な回しげり。
間断なくJ・Bは攻めたてる。
それを冷静にかわしながら、彼女はその赤き凶眼と呼ばれし二つの眼を細めた。
さらに一歩ふみだし、J・Bは大きく跳ね上がる。
……跳びげり……。
彼女は体勢を低くして、その巨体の真下を潜り背後に回り込み隠しもったナイフをひらめかせる。
銀光をのこし、そのナイフはナイフであることを放棄した。
彼女は舌打ちして、その半ばから折れた根性無しのナイフを投げ捨てる。
そして……。
J・Bはまたはねる。
オーバヘッドキックの要領とでもいうのだろうか?
跳ね上がったJ・Bの足が、彼女の頭目掛けて落ちてくる。
彼女は大きくさらに一歩跳びのく。
さらにたたみかけるように、J・Bは体をひねり踏み込んだ。
突き。
彼女は二歩跳びのく。
相手は隙だらけ。
しかし、攻めてはない。
今度は三歩ひく。
そして……。
「チェックメイト……、終だ」
そこはエアロックの中。
後ろはもうない。
その背には鋼鉄のゲート。
そのさらに向こうは、死の宇宙。
だが、彼女の顔に浮かぶは笑み。
「……?」
次の瞬間、またあの振動が起こる。
先ほど開いたゲートが閉じようというのだ。
そう、ゆっくりとJ・B目掛けて。
そして、彼のいる空間ごと、すべてが真白く凍り果てる。
「凍る?なっ……テクニックか?」
「ハイ、動かないでね♪」
テクニックそれは科学技術によって再現された、魔法的技術。
精神力を糧に行われる奇跡。
それはあくまで魔法的であって魔法とは一線をかすものだ。
ゲートが降り、そして氷が砕ける。
「だがそれがどうした?!」
真白き氷を内より砕き、ゲートをのうちに転がり込む。
そして、ゆっくりと無言のまま、J・Bは立ち上がった。
一瞬の沈黙。
そして、彼女は右腕を静かに前に突きだし、ワイヤーを撃ち出す。
「……次はどんな小細工を見せるつもりだ?」
J・Bの脇を抜け、背後の閉じたゲートにつき刺さるワイヤー。
そして彼女は言った。
「こんな小細工かな♪」
それが合図だった。
ゲートがゆっくりとひらく。
宇宙とそこを隔てるそれが……。
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