第五話 かの城に来たる冒険者ふたり


「ここか」

寒風吹きすさぶ寂れた城門。もとは大理石であったろう(いや、今だって大理石だが)壁と柱は、風化と無数につけられた傷のおかげで廃墟の建物からはぎとってきたのではないかとさえ思わせる荒み具合だった。掃除がされていないのは誰の目にも明らかで、そこをくぐればまさしく廃墟の街が広がっているのではないかとさえ思える。

「本当にここが・・・あのゾルゲなのか?」

半信半疑なのはしようのないことだ−−−少なくとも自分も、まだ信じられないでいる。
普通の学歴を持つ者ならば一度は聞いたことがあるだろう。暁の魔戦士、王立守護騎士団第一大隊隊長、ゾルゲ・リーンバーン出生の地。救世の英雄に因んで名を変え、一時は北方地帯の経済形勢を一編させるほどの力を有したソニア最北端の城、"ゾルゲ"の名を。

「それほどまでに、あの英雄の裏切りは人々にとって許し難いものだったということだろう」

最早この巨大な城門はからくりによって動くこともなく、門をくぐるには脇にしつけられた通用口を通る他無い。分厚く巨大な木門は今はただの壁の一部であった。

ぎぃ−−−

通用口の扉を軽く押しやると、乾いた木扉はあっさりと向こう側へと開いていった。

「さて・・・鬼が出るか蛇が出るか。日頃の行いが試される一瞬だな」

雰囲気を全く無視した軽い口調でそう言い、フォールム・エル・リーヴァレストはにべもなくゾルゲへと踏み入った。



暁の魔戦士、王立守護騎士団第一大隊隊長、ゾルゲ・リーンバーン。
剣聖シド・マイヤーズが創始した震天撃壊流が一刀、無限狼雷鞭を皆伝。
シドの後任として第一大隊隊長就任。
三年前の"封印解放"事件において、覚醒寸前だった大悪魔バールを再封印。
帰還後ソニア国王より救世の英雄と賞され、故郷に居城を建造。



「やっぱ無人かよ・・・」

吹く風はやはり城内でも同じく、突き刺さる程に寒い。雪はまだ降りていなかったが、もしかしたら今晩あたりは降り出すかもしれない。そんな天気だった。

「それならそれで、面倒が起きなくて良いだろう?」

「いや、まぁ・・・そりゃそうなんだけどよ」

まもなく日が落ちる・・・・・・

「なにはなくとも、夜になる前に着けたのは良かった。とりあえずどこかの建物に入ってねぐらを確保しよう。探索は、それからだ」

「あーい」



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