第二話 困窮する者達の末路



「・・・? なんだろ、これ・・・」

昼間とはいえ薄暗い森の中。
茂みの下からにょっきり突き出した"足"につまずきそうになり、止まる。

・・・・・・・・・・?

いくら考えても疑問符しか思い浮かばない。
ここはソニア王国管理外区画・・・・・そうそう通行人などに会える場所ではない。

「もしもーし、どうかしたんですかー?」

全く無警戒のまま、茂みの中へ分け入っていく。
彼はどうやら、遭難者が隠れているのだと勘違いしたようだった。
それはまぁ・・・あながち間違いではないのだが。

がさがさがさ・・・

「・・・・・・!?」

「・・・よぅ」

苦い顔つきで、だが強がって張り付いたような笑みを浮かべ、
大の字に寝そべったまま右手をあげる・・・"遭難者"。

絶句して、口をおぱくぱくさせる・・・"彼"。

「奇遇だな・・リョウ」
「らせつさん!!??」

ふたりの声(叫び)は、全く同時に森へ反響していった。



「あっれーーー? リョウさんはどこ行ったんだー?」

広大な森。"キリヒエッタ・アミザレギウス樹海"を独りで歩きながら、困った顔で喚く男。
ばっさばっさと生い茂る枝草を剣で払いのけながら、かろうじて判る太陽の位置から方位を割り出し、だいたいの見当をつけて進んでいく。

「くっそ・・・リョウさーーーーーん!!!!!」

その頃ジュドーは迷っていた。



いつだったろう。
すべてが普通にすべてであり、あるべきものがあるべきように存在していたのは。

今や神の法則は完全に崩壊・・・もとい混乱して、その意味を成さずに世界を狂わしめている。世界に歓迎され、擁護されるはずだったもの達は、いまや最大の仇敵として"世界"に認知されていた。

「何故我らはこうも迫害を受けねばならぬ・・・なぜこうも飢え、嘆き、苦しまねばならぬのだ・・・。すべてのものの源流よ・・・何故だ・・・答えろ」



鎮座するようにしてその剣はあった。
普通剣と言えば、壁に飾られているか、棚の上に置かれているか、それとも誰かの腰にぶら下がっているものだろうが、"それ"はそのどれにもあてはまらない。
その剣は、台座も吊り糸も無いのに虚空に固定され、まさしくそこに鎮座していた。



「剣を持った大男、ですか・・・」

「ああ・・・」

あのあと、らせつはリョウの魔術によって完全に治癒され、焚き火を囲んで"こと"の経緯を話していた。

「とにかくべらぼうな強さだったよ」

そう言って、まだ痺れが残る右拳を握り締める。

「触ることすらできなかった。手が届くと思った瞬間には、すごい力で弾かれて・・・」

ぎしり

「で、命からがら逃げ出して、なんとか地上まで辿りついた。力尽きてそのまま眠りこけてたってわけさ」

「そうですか・・・」

深刻そうにうつむくリョウ。
おそらくこちらを心配してくれているのだろう。背筋をくすぐったい感触が走る。

「いや、たいしたことじゃないさ。次は・・・負けねェから」

にやりと、笑って見せる。
幾分リョウの表情が軽くなった。

「ところで・・・ジュドーさんはどうしたのかな・・・・・」

「ん? 一緒に来たのか?」



「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」

きょきょきょきょきょきょきょきょきょきょきょ−−−−−

何十という亡霊の群れに襲われるジュドー。

「なんかだんだん増えてってないかぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

実際増えていた。

「はっ!? 明りだ!! あそこまで行けばなんとか!!」

なにが「なんとか」なのか知らないが、おぼろげに見える赤い光を見つけた途端驚異的にスピードアップする。

「助けてーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」

がささささっ!!

茂みを突き抜けると、そこは天国のようだったと後にジュドーは語った。

「ジュドー!?」
「ジュドーさん!!」

聞こえてきた声に、思わず涙がこぼれるジュドーであった。

そして、三人の惨劇が今、始まる。


<続く>



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