第1話 ずたずたのボロ雑巾のように愛されて
どかっ!!
放り捨てられるように投げ出され、地面を転がっていくらせつ。
全身ずたぼろで、来ている衣服はあちこちが破れ、すすけている。
もとは漆黒だった服の色も、今ではまだらな灰色にくすんでいた。
(くぁ・・・・・何が・・・起こったんだ・・・・・・・・?)
身じろぎすると、身体のあちこちから激痛が起こる。
もはやどこが痛いのか、どこが壊れたのか、それすらもわからないほどにらせつの身体はひどく損傷していた。
息をするだけで痛むということは、あばらか、内臓がいかれているせいなのだろう。
なら、息をしなければいいじゃないか・・・?
一瞬そんな冗談地味た考えが頭に浮かぶ。
生きることを止めてしまえば、楽になれる。
だがそれは、これから起こる可能性という名の未来を全て否定すること・・・
逃げるのは彼の性分ではない。
(ったく・・・ひとりで来るんじゃなかったぜ・・・・・。
こんな時に限って、こんなメにあうんだもんな・・・・・オレの人生って)
活動を停止しようとする身体を、精神が無理やりに奮いたたせる。
痛みと骨折で身体は動かない。
だが、まだ生きている。
ならば、動けるようになるための方法は無限にある・・・。
(少し休もう・・・・・。
まずは、力を取り戻さないと・・・・・・)
そう言って、らせつはゆっくりと眠りに落ちていった。
洞窟の入り口で寝転がっていたら死体と間違えられるかな・・・などと考えながら。
闇に溶けこむようにらせつの意識が薄れていく。
そして、記憶がフラッシュバックする。
「貴様のような貧弱な人間が私に勝てると思ったか!?
所詮人間。貴様程度では私の足元にも及ぶものかよ!!
無駄だ無駄だ無駄なのだ!!足掻いても弱者は弱者!!
程度身分をわきまえろこの低脳で無力で卑小な人間!!
ふはははははははははははははははははははははは!!」
ぎしり!!
奥歯が軋み、血圧が上がる。
握り締める莫邪宝剣の柄がみしみしと音をたてた。
だがらせつは動けない。
打ち倒され足で踏みつけられ、地面に押しつけられている。
何度もがいても、何度試しても無駄だった。
抗いようの無い強い力でしっかりと抑えつけられている。
「人間。貴様はその程度なのか?
本当にこの程度の力しか無いのか?
もとは我らと同じ源流を辿るモノだろうが・・・貴様らは」
「お前が・・・私を超えられないというのならば、私がお前に教える意味とは・・・なんだ?」
意識の断絶。記憶の欠落。
放たれた言葉は耳には届かず、直接精神の奥底に到達して大きな傷を抉っていく。
「それともここで死ぬか。少なくともこの程度ならば失ったところで私にはたいしたことではない。
そうするか? 我が子よ。そうすればこの苦しみから開放されるのだ」
血。痛み。
実際にそれを流していたのが誰だったのかはわからない。
ただ一面に広がるおびただしい血飛沫と、血だまりが、視界のすべてだったことだけが頭に残っている。
「・・・・・・・随分と・・・なものだな。所詮お前は・・・・・か!」
圧壊・・・そして最後の断絶。
途絶。
そして回帰する意識。
再び目を開けると、さっきと同じ場所。同じ景色。
時間もそれほど経過していないようだった。
体力は・・・二割程戻ってきた、てな具合か。
「・・・・・さぁて・・・どうしよっかね」
寝転びながら空を見上げると、真円の月が煌々と輝いていた。
真昼の陽光とは違う、排他的で儚げなその光に打たれながら、らせつはぼんやりと考える。
(また潜ったところで弾き飛ばされんおがオチだろうしなぁ・・・)
思い出すと傷が疼く。
なので、らせつはアレのことを思い返すのは止めた。
かわりに現状における打開策を練り込んでいく。
「よし!!」
ぽん。
良策が閃き、手を打つ。
そして、
「練る。ぐー」
<続く>
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