『闘狂狼』 第三話「億泰」
億泰という男がいる。
騎士であり、剣士にして、武人である男。
純朴であり無骨であり、豪壮な男。
そして多少の下世話をたしなむ、愛嬌のある男。
多分。そんな男だったと思う。
「・・・・・・・ん♪」
彼にしては珍しく楽しげに、陽気な声を漏らす。
銀髪、黒眼、白い肌。黒い外套(ローブ)。
魔術師−−−夜叉。
「・・・・・・これはまた、随分と・・・・・」
彼はやはりいつものように、三階建ての建物の屋上に(勝手に)昇り、街の景色を眺めていたところだった。
ただし、今は真昼。天気は快晴。
にやりと、夜叉が笑う。
そして−−−−−
ぶわっ−−−!!
軽やかにふわりと、屋上から飛び立った。
その時億泰は、ただたんに散歩する為だけに街を歩いていた。何も目的は無い。心地良い日差しを浴びて歩くことが楽しかったからだ。
「♪〜〜〜〜〜」
口笛を吹きながら、のたのたとゆっくり、街通りを歩いていく。果物屋、菓子屋、玩具屋・・・たまには戦いのことを忘れて普通の店屋を回るのも悪くはなかった。剣も、鎧も、装備はすべて宿に置いてある。
「♪〜〜〜〜〜」
と、
ぶわっ−−−−−−−
やおら空から降って来た黒い塊−−−いや、よくみれば黒ずくめの人間−−−が、わし、と億泰の頭を鷲掴みする。
「え? え? えぇ!?」
ワケもわからないまま、あたふたと慌てる億泰。
周囲の通行人もびっくりしてそれを見ている。
黒ずくめはそんな様子には全くお構い無しで、そのまま尋常でない馬鹿力でもって億泰を引きずり、転移の魔術を唱えて何処かへと彼を連れ去ったのだった。
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