『闘狂狼』 第ニ話「フォールム・エル・リーヴァレスト」
フォールム・エル・リーヴァレスト。
その男はそんな名前だった。
剣士。正確には魔法剣士、か。
聡明で、どこか淡白な雰囲気のする男だと記憶している。
「・・・・・さて、どうしようか」
今、眼下にその男がいる。
真夜中の街通りを一人、何処かへ向かって歩いている。
「・・・・そうだな」
独り納得して、夜叉は建物の屋上から音も無く飛び降りた。
「・・・・・・なんだ・・・?」
その時フォールム・エル・リーヴァレスト−−−フォムは、ほんの僅かに場の気配が変容したことに気付いていた。時刻は・・・夜中の三時過ぎといったところか。まっとうな人間が出歩く時間ではない。
「・・・・・・・・・・」
腰の剣に手をかける。
「・・・・・狙われる覚えは・・・まぁ、ありすぎるほどにあるか」
苦笑雑じりに、そう呟く。そして・・・・・・
『ガーン』
かっ−−−−−−−!!
"攻撃"は、大方の予想通り背後からだった。
唐突に白光が閃き、けたたましい轟音をともなって雷がフォムに襲いかかる。
「ふ!!」
息吹を吐き、真横に跳んでそれをかわすフォム。
疾駆する雷はそのまま通りを突っ切り、町の外へと消えていった。
遠くで、軽い爆発音が聞こえる・・・。
「何処の誰かは知らないが・・・・・」
着地と同時に剣を抜き放ち、"相手"へと向き直るフォム。
夜闇のせいで相手の姿は見えないが・・・・、何処にいるのかは、開けっぴろげに放たれる明確な殺意のおかげではっきりとわかる。
「私に刃向かうのなら、それ相応の覚悟は出来てるんだろうな」
そしてそれに対抗するように、フォムの"殺意"が膨れ上がった。
『ガーン』
再度唱えられる雷の呪文。
漆黒の闇に球電が生じ、それが瞬くように弾けた刹那、方向性を付加された超高圧の電流波が標的をめがけて空間を疾駆する。
轟ッ!!
またもや空を薙ぐ雷。
街中の何かに接触したのか、ぱっと白い光が閃き辺りを明るく照らした。続いて光が紅蓮に転じる・・・。着弾点が炎上したらしい。
「二度目だからな・・・」
そんな呟きが聞こえる。
"背後から"聞こえる。
「軌道がわかれば、かわすのは難しくない」
冷たい口調。心臓を刺し貫かれるような。
だが彼・・・"夜叉"にとってはたいしたものでは無い。
「・・・・・・さて、どういう了見か聞かせてもらおうか」
そう言ってフォムが切っ先を夜叉の背中に突きつけた。
刹那。
『ウィンダ』
ぶぁ・・・・・
「・・・!!」
湧きあがる風−−−そしてそれに巻き上げられる無数の花吹雪。
叩きつける花びらから顔を庇う為に、フォムが左手を上げた。
「・・・・・・ハハッ」
その一瞬に乗じて、夜叉が身を翻す。
黒い外套がふわりと舞い、一跳躍でフォムの剣の間合いの外へと跳び退る。
「・・・・・このっ!?」
ばっ、と左手で花びらを振り払うが、最早遅い・・・・・・。
「この距離なら」
掌を前へ突き出し、魔術を行使する為の精神集中を始める夜叉。
「お前は避けられるか・・・?」
・・・・・・・・・・。
「・・・・・・・・・・・・・・何が目的だ・・・」
捻り出すような声を出す、フォム。
それを見てくっくっと笑い、前髪で瞳を隠す夜叉。
「・・・・・・闘狂狼・・・」
「・・・・・・・何?」
フォムが聞き返す。
「闘狂狼。この"世界"は暇なんだ・・・・・その暇つぶしさ・・」
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