『闘狂狼』 第一話「序幕 変革と混迷」


「・・・・・うっ!!」

 呻く。唐突に全身ががくがくと痙攣し、止まらない。
 胃の奥から不快感がこみあげてきて、たまらなくなって地面に膝をつく。

「・・・・・何・・・だ・・?」

 苦しい。涙が止まらない。吐き気がひどい。
 意識が薄れていく。

「・・・・・くぁ・・・・・・痛ぅっ・・!?」

 ずきんと、頭の中に痛みが起こる。
 はじめは一度。
 それが、何度も、何度も繰り返されていく。

ずきん、ずきん、ずきん・・・・

「ぁあぁぁぁぁぅっ・・・・・・あ、はぁあぁ・・・・・」

 息が、出来ない・・・・・。
 何も見えない。
 そして次第に、かきむしる石畳の地面の感触も薄れていき・・・

「いやだ・・・・・ぁ、助け・・・・らせ・・・・・・・・・・」

途切れた。



「・・・・・ふん」

ばさ・・・・・

 黒い外套(ローブ)の裾が、夜月の光の下で翻る。
 漆黒の、夜闇より深い闇色の外套。

「・・・・・・どういうわけだ・・・"これ"は・・」

 "彼"は自問する。
 冷たい光を放つ双眸を、訝しげに翳らせて。

「・・・・・"神々の気紛れ"・・・・ミッシング・リンク・・・・・・」

 見上げる。
 闇に包まれた夜空を。
 漆黒の中に光る星々と月を。
 "空にある何か"を。

ふっ・・・・・

 "彼"が笑う。

 一瞬ぎらりと、その双眸の眼光が強まったかに見えた。
 殺意・・・浮かんだのはそんなものだったかもしれない。

「・・・・・そうか、まぁ、いい」

 視線を下ろす
。  目深に、銀色の前髪に瞳を隠すようにして。

「・・・・なら、こちらも楽しませて貰うさ。じっくりと、な」

 そして言葉が風に流れ消えるとともに、"彼"の姿も消え失せていた。



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