『恥の意味ー後』
男の標的は億泰に変わったようで、さっきよりも増して
顔が真っ赤になっている。
億泰は新しいタバコに火を付ける。
「いいか オッサン そこの嬢チャンは連れに
剣を抜かせないため 敢えて人前で恥をかいた。
爪の垢でも煎じて飲むこったな」
「な、、、なにぃ!!」
再び憤怒する男。億泰は男を上目でジロリと睨めつけ、
こう言った。
「恥の『意味』を知らネェ 馬鹿が!!」
「ぬああーー!もう勘弁ならねぇ テメェから死ねーーー!!」
凄まじい形相で斬りかかってくる男。
億泰の得物は先ほど拾った80cm程の木の棒、だが
億泰にとってはそれで十分だった。
大上段で斬りかかってくる男に対し、袈裟掛けに棒を振る。
億泰は構えをとっていなかったが、明らかに男の剣それよりも
速かった。そして、そのただの木の棒は
男の肩口へ打ち下ろされ、そのまま振り抜きついでに
男の剣をもへし折った。
彼の刀法には習って身につけるどんな『型』もなかった。
ただ太刀行きの『速さ』と
そこに込められた『力』だけが勝負を決する戦場の刀法
鎧すら叩き割る まさに『獣の剣』なのである。
「テメェも『騎士』なら約束は守れ!
情けねぇマネすんじゃネェよ!!」
もはや男の方は気を失っており、言葉は届いていない。
億泰は少女達に目を向け、
「ヨォ さっきは悪かったな ほんのジョークだ
勘弁してくれな」
そう言って手を軽く振る。
少女の方はまだなにか言いたそうな表情で睨んでいるが、
女剣士の方は剣の柄から手を離し億泰に近付いて来る。
「アリガト 一応礼は言っておくよ」
「なぁに ただのお節介だよ
それにあっちの嬢ちゃんは約束を守ったんだ
約束を守らねぇ アイツが悪い」
「ふふ アンタおもしろいヤツだな
たったそれだけのことで喧嘩ふっかけるなんてサ」
「そうかい? ま とにかくココにゃあーいう輩が
多いから気を付けなよ 特にあっちの嬢チャン」
そう言って少女に目を向ける、まだこっちを睨んでいる。
「うへ えらく嫌われたモンだな こりゃ」
思わず苦笑いする億泰
「アハハ 後でアタシがフォローしとくよ」
「そりゃ助かるよ しかしホント口は災いの元だな」
「ふふ さて それじゃアタシ達はもう行くよ」
「ああ じゃな」
女剣士は少女の方へ走るが、途中振り返って億泰に尋ねた。
「あんた ホントチームに入る気ないの?」
「チームにはもう入ってるんだよ 掛け持ちする気は無いね」
「へぇ なんてチームなんだい?」
億泰は言おうか言うまいか少し迷ったが言う事にした。
「"闘狂狼"」
「へぇ 聞いた事ない名前だねぇ」
「今はな でも、そのうち誰もが知る事になるぜ」
おどけてみせる億泰
「ハハ 楽しみにしてるよ じゃ〜な」
そう言って少女の方へ再び走る女剣士
無言でパタパタと手を振る億泰
女剣士はなにやら少女と話しながら雑踏の中へ消えていった。
白竜亭に向かう途中、億泰はある事を忘れていた事に気付いた
「名前聞くの忘れた、、、」
もう夕暮れ時であった。
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