『養成所』


「ファ~~~~」
午前9時。彼は目覚めた、と言っても昨夜の酒がまだ抜けて
いないのか、虚ろな表情のまま上半身だけベッドから起こし
しばらく外を眺めていた。
そして、昨夜の宴の一人の剣士の言葉を思い出す。
(「おや? 億泰、まだ職質受けてないのか?
 別段これといって決まってなかったら一度行って見るとイイ。
 それに、早めに養成所でライセンスを貰って置かないと後々
 面倒だぞ。」)
「・・・・・行ってみるか」
そう呟いて彼は軽い身支度をして白竜亭をあとにした。
彼は、もう自分が何になるかは決めていた。
だがこの国、ソルニアでのライセンスは持っていない。
洞窟解禁日まで残す所あと16日、一刻も早くライセンス
を取る必要があった。

 ここソルニアは、つい最近になって洞窟内での修行者が
行方不明になる事故が相次いで起きている。
これに『地獄の1000日』の再来を予測した
エルガ王の子孫にあたる現在の王は、即刻各地の洞窟への
進入・探索を禁じた。そして王が派遣した部隊のみで
これらの異常現象と『地獄の1000日』の関連性を
調査する事となった。 だが、過去の英雄たちが作った町の
代表者達はこれを快く思わなかった。その理由は洞窟に
隠された数々の財宝や珍品にあった。これらの財宝を王の
派遣部隊が発見すればすべて王の物となり、宝を独占する
形になるからであった。逆に探索が他の町の冒険者もできる
様になれば、金品の流通が盛んになり、一攫千金を狙う者達
も噂を聞きつけ、こぞってこの国を訪れるだろう。
人が集まればそれだけ国に活気があふれ莫大な国益と
なるのである。再び地獄の1000日来るかもしれないと
いう恐怖はありつつも町の代表者達は目先の利益しか
考えていないのであった。
そして王も、いつまでも禁じていられないと悟ると
禁を解くその日を公表し、それ以後の洞窟の管理は
それぞれの町の代表者がする事となった。
 が、結果としてそれが異国から来た無名の者達の、
いわゆる『寄せ集め』の部隊が
ソルニアを救う事になる事になるのだが、それはまだ
先の話である。
 話を戻す。 「禁を解く」との言葉に町の代表者達は
行動を開始した。まず始めにそれぞれの町、ルタカス・ミザ・
ガルネラ・クロウリに養成所を建設し、そこで一定の能力を
示すまで成長した者にライセンスを交付し、
それを洞窟探索の許可証とした。
故に他国から来た者達も、自分で養成所を選び所属、
そしてそこで修練を重ね
ライセンスを取得しなければならなかった。
もちろん有料である。だが養成所に来る者でも
数日でライセンスを取得するような剛の者も少なくなかった。
特に、異国で何度も修羅場をくぐって来たような者達は異常な
までの能力を示し、一日でライセンスを取得する者もいて
代表者達を驚かせた。

そして『彼』、億泰は今ルカタスにある『騎士養成所』の
前まで来ていた。
「・・・・ま どうにかなるだろ」
生まれてこのかた修行の一つもしたことが無い億泰。
以前行っていたトレジャーハントの時でも、本能と
直感に任せてギャインソーを振り回していただけであった。
始めは武道家になろうかととも考えていたが、ギャインソーに
代わる物もありうると考え騎士になることを決意したのだ。
結局は、未練タラタラなのである。



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