『土竜』


薄暗いドーム状の部屋の中、
そのモグラは遅めのランチの真っ最中だった。

口の端に付いた布切れは、さきほどの「何か」なのか?
今となってはそれも解らない。

モグラが億泰に気付く、口はクチャクチャと動かしたまま
視線だけを送る。

「こ こいつは、、、鎧モグラ!」

鎧モグラ。その名が示す通り全身が堅い甲殻で覆われていて
モグラとしては極めて珍種である。モグラは漢字で書くと
「土竜」と書き、その戦闘能力も高い。
二足歩行をし、動作は体の巨大さに似合わず俊敏にて獰猛。
両手剣ほどもあろうかと思われる長い爪を生やし、
探索中の冒険者を襲ってはその肉を食らうと言われている。
そして特筆すべきはその全身を覆う「甲殻」である。
剣等の物理的な破壊力はすべてその頑強な甲殻に
阻まれてしまい。物理的攻撃一辺倒でコイツを仕止めるのは
並大抵の苦労では無い。
億泰にとっては最悪のカードだったと言える。

逃げるか?
分が悪すぎる。
壁はまだ開いたままだ。


このまま一気に走れば逃げ切れる!!
逃げるか!?



『否』

冷静な思考を、心の底から涌き出る炎が飲み込む。

コイツとやり合ってみたい。
コイツを倒したい。

自分を試してみたい。


右手でタバコの火を握り消し
億泰は不適な笑みを浮かべて自慢の剛刀を
下段に構える。

「、、、、へッ  いくさってのぁな、、、、
         負けいくさだからこそおもしろいのよ!!」

 グゥオオオオオオオオオオオオオオオ

その台詞を言い終えたと同時に土竜が
洞窟全体に響くような叫びをあげる。
億泰の殺気を感じとったのだろうか。



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