エピローグ

 ━━━第一回調査隊降下から1ヶ月━━━

ガアッ!!

 獣の咆哮。
 原住生物【ブーマ】が雄叫びをあげながらヒューマーに躍りかかる。

「がっ…!」

 鋭い爪をセイバーで受け止める。
 凄まじい獣の膂力。
 切っ先がグラリと傾ぐ…。

がつっっっ!!

「うぁぁぁっ!」

 脳天を痛打され、ヒューマーが地面に叩きつけられる。

「カシス!」

 女の声が飛ぶ。

「隊長!数が多すぎる、もうダメだ…!」

 すがるように"隊長"に寄るレイマー。
 青いボディースーツはズタズタだった。

「くっ……」

 誰もかれも苦戦している。
 以前よりも敵の質は落ちているというのに、数量が半端でなく増えている。
 対処しきれず、既に数名が負傷…もしかすると死傷…を受けていた。

(また、あの時と同じ目に遭う…?)

 ぞくり、と背筋を悪寒が走る。
 1ヶ月前のあの記憶が脳裏をよぎった。

(冗談じゃない!)

 ばっ、と銀髪を翻して、彼女は叫んだ。

「総員撤------」

 瞬間

「『ギフォイエ』!!」

ごうっっっ!!


「-----っっ!?」

 突然沸き上がる炎。化物共を中心に燃え上がり、竜巻のように螺旋を描いて周囲を呑み込んでいく。
 炎にまかれたブーマの群れは、あっという間に燃え尽きて灰になっていった。

「………随分と弱気になったじゃねぇの。セ・ン・パ・イ♪」

 声。
 赤く揺らめく炎の中心に、誰かが立っている。

「………っるさいなぁ…」

 顔にかかる熱波を手のひらで防ぎながら、人影へ向かって悪態をつく。

「たったいまジジイの"修業"が終わったぜ。これで俺も晴れて『黒き辛辣なる心臓』、だな」

 炎が晴れた。
 若い男。口端を上げて皮肉げに笑う。

「さぁて、親父の弔い合戦だ。派手に行くぜ!」





━━━同時刻、パイオニア2展望フロア━━━

「…うまくいった、な」

 ガラスの向こうのラグオルを眺めながら、にやりと笑う好々爺。

「ま、根はまだまだガキだってことさ」

 同じくラグオルを見ながら、いやらしい笑みを浮かべる男。

「じゃあ…行くわ。次の手段を見つけなきゃならねぇし」

「達者でな。奴が見つかった時は、いつもの方法で連絡をしよう」

「ああ。ありがとうな、クリムの爺さん」

 男がくるりと振り返った。
 ラグオルの全景に背を向け、歩き出す。

『全ては次の世代の為に』

 唱和した二人の声が消えるころには、男の姿はフロアからなくなっていた。






 天使はずいぶん悪魔に憧れていて
 自分の羽をまっ黒に塗り潰した
 どうしても角だけが生えてこないと
 嘆く姿はどう見ても天使だった

 ベイビー・スターダスト

 星くずのひとつの気分はこんな感じ





【終幕】


<前へ>
<最初へ>
<戻る>