24.終章

 現れた(?)老紳士は、ダークグレー色のスーツの胸元から2片の布きれを取り出した。

「修羅のグローブだ」

 ベッドの上、滑らせるように、らせつのほうへ差し出す。
 受け取って、持ち上げてみる。ずたずたに裂けてぼろ布同然になっていたが、それは間違いなく父親が填めていたグローブだった。

「これが回収できた唯一の遺品だ。こちらに戻る間際に、シルヴィが受け取った。あの化物を退け、船へのテレポートゲートを開いた直後、彼は…ラグオルで息を引き取ったそうだ」

「そう…ですか」

 手の中のグローブを見つめながら、らせつは力無い口調で返事をした。

「…らせつ君」

 と、老紳士、クリムゾンは言った。

「彼が何を追ってこの星まで来たのか、その理由を君に話そう」

「……え?」

 顔を上げて聞き返す。
 老紳士はほんの少しだけらせつのほうへ詰め寄った。

「君が幼い頃亡くなった母君、鬼門院久遠。彼女の死因は病死と聞いているな? だが違う。彼女は殺されたのだ。我らが【災禍】と呼ぶ怪異によって、なぶり殺しにされたのだ」

「っなっ…!?」

 らせつは絶句した。
 母親は肺の病で死んだと父親から聞かされていたのだ。

「修羅は【災禍】を倒す術を求めて私のもとへ来た。そして黒き辛辣なる心臓の名を得て血族の一員となり、世界に幾多ある【災禍】を滅ぼす任についた。この星へ来たのもそれだ。あの星には…【災禍】のひとつが"いる"」

「…」

 ふぅ、と、区切りをつけるようにクリムゾンが息を吐いた。

「……らせつ君」

 らせつをに声をかける老紳士の表情が神妙になる。

「君に頼みがある。これは修羅の遺言でもある。君を彼の後継者、新たな『黒き辛辣なる心臓』として迎え入れたい。彼の意志を、母君の無念を、命を賭して君を救った彼の想いを、無駄にしない為にも、どうか、この申し出を…受け入れて欲しい」

 クリムゾンは座ったまま深く深く頭を下げた。

「頼む」





 …。





「はい」


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