22.命を賭して守ったって良いじゃないか

「フ……ッ!」

 一歩踏み出すごとに腹の傷が疼く。だがそんなものは一切無視してブラックは駆けた。
 目指す先には小山のように大きな岩の化物。ツノがあり上腕が肥大し猫背である。サイと大猿の子供を石を食べさせて育てたような、非常識な物体。

(あれが見た目通り岩だったら拳がヤラれちまう。……使うしかねぇ)

 化物までの距離はあと10mほど。全力で走れば3秒ほどで辿り着く。
 だが…おそらくその3秒以内に、化物はシルヴィを叩き伏せるか、刺し貫くだろう。彼女があれに敵うとは到底思えない。

【ダメだ、使うな!】

 頭の中に警告が飛ぶ。聞き慣れた、あの老人の声。

「うるせぇ!」

 ブラックはその声に対し一喝した。

「俺なんざどうなったって構わねぇ。あいつらを死なすワケにはいかねぇんだ!」

 バチィッ!!

 瞬間、電気が弾けたような甲高い破裂音が響く。腰のあたりに構えたブラックの右腕から黒い"もや"が滲み出し、その中で漆黒の雷がバチバチと荒れ狂った。"もや"と雷は握りしめられたの拳の先から肘までを完全に覆いつくし、さながら鎧手甲を填めたような風体になっている。

「我は黒き・辛辣なる・心臓。呼びかけに応え顕現せよ」

 ブラックが言葉を発するごとに、もやの密度と雷の勢いが増していく。
 それが嵐のように激しく強まった時、ブラックは化物の直近に到達した。

「受けろ。黒き辛辣なる心臓の秘技、外法召喚術の深奥を」

 走り込みながら右腕を振り上げる。そして、無防備にさらけ出されている化物の背中へ、勢いに乗せて------

(らせつ…)

 そこで気付いた。化物のすぐそばで気絶していたらせつが、伏せたまま頭を上げてこちらを見ている。
 何が起こるのかわかっているかのように…悲痛な顔をしていた。

 ふっ、とらせつに笑いかける。

(お前は生きろ。俺と…母さんの分までな)

 叩きつけた。

『秘奥義・神鳴』

 光が、弾けた-----。


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