17.By senseless overwork.
「もう一度言うぞ…これは怪我や疲弊の類じゃない。劣化だ」
薄暗がりの部屋の中、若い医者は重苦しい表情でそう言った。手に持ったカルテを指で叩き、クリップボードが割れてしまうような勢いで机の上に放る。
「損傷とも違う。骨折ですらない。お前が…お前の腕が今抱えているものは、何度も言った通り、劣化だ。」
キィ
古い革椅子が軋んだ音をたてる。
医者は溜息をつきながら背もたれに埋もれた。
「原因は両腕の酷使」
医者と向かい合い、椅子に座ってうつむいている患者。こちらもまだ若い。男。医者の言葉を黙って聞いている。
「長期間に渡る酷使により、両腕の筋肉、腱、骨、神経、これら全てがイカれている。どれもこれもボロボロだ。いったい何をどうすればここまで身体を痛めつけられるんだか…不思議でしょうがない」
医者が患者の腕に視線を落とす。見た目、何もおかしなところはない。が…
「治療は不可能だ。先も言ったように、これは傷病じゃないからな。いわゆる……障害だ」
机の上のカルテを見やり、殴り書かれた文字を再読する。
また深く溜息を吐きながら、医者はとうとう、断罪の言葉を患者に告げた。
「お前の両腕は、もうマトモに動かない」
----------瞬間、患者の肩が僅かに震えたのを医者は見ていた。
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