15.Reason

 ブラックの初撃は突きだった。踏み込みと同時に前へ出される右拳。迅速に、そして的確に、らせつの腹部へと埋め込まれる。

「ぐ…あ……」

 一点の楔から爆発的に広がっていく破砕のように、耐え難い激痛が全身を駆けめぐった。外傷を作るのではなく、内臓を破壊する打ち方…ブラックがしたのはそれだった。

「…こんなもんもかわせねぇとはな」

 腹を抱えて背中を丸めた頭上から、ブラックの落胆した声が浴びせられる。

「ほれ」

 ぐい、と、顎を掴まれ、らせつは顔を上げさせられた。

「どうした。殴り返してみろ」

 小憎たらしいブラックの…父親の顔が鼻の先にある。不必要に鋭い目つきでこちらを見据えている。

「………」

 煮え返る腸。いつだってそうだ…この男は容赦が無い。というか、人間らしい感情そのものが欠落している。優しさも、暖かさも、愛しさも、この男からは何も受け取ることができない。
 らせつは拳を握った。ふるふると震えながら、骨の軋む音が聞こえてくるほど強く、きつく。

「………」

 殴らなければ。顔面に一発、歯が数本飛ぶ程強く殴りつけ、地面に這いつくばらせてやらねばならない。その為に家を飛び出してからずっとずっと、自分を鍛え続けてきたのだから。

「ほれ、ここだ」

 ブラックがわざとらしく右頬を向け、とんとんと指で示してみせた。ここを殴れと。ふざけた態度で。

「こんの…クソッタレ…」

 らせつはもう限界だった。

「死にくされ馬鹿親父がぁぁぁっ!!」

 らせつが叫び、そして…
 振るわれた拳がブラックの右頬に炸裂した。


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