13.Study again
「…ここで会ったが百年目…」
いつの間にそこにいたのか。黒づくめの男…らせつが剣を手にして立ち、悪鬼羅刹のような禍々しい形相をブラックに向けてきている。憤怒、そして喜悦。それらが等々に混ざり合えば…それは狂喜と称される。
「羅刹が手前ェを殺してやるよ」
ばつんっ!
甲高い奇妙な音。らせつの足下が爆竹を喰らったように弾け、そして-----
一瞬後にはブラックの眼前まで距離を詰めている。体勢を前のめりに低くかがめ、右肩に剣を担ぎ、今にも斬りかからんとする体勢で、鋭くブラックの顔を見据え、見返すその顔に余裕がありありと浮かんでいるのが見えて、憤り、力を、篭めて、縦に半月を描き、紅刃が走る。
(これが俺の力だ-----糞親父)
どしぃっっっ!!
疾駆した勢いにまかせて振るわれた刃は、ブラックの左の肩口に斜めに叩き込まれた。驚愕の表情を浮かべたブラックが、肩から捻られるように後方へ吹き飛ばされる。
「へっ-----」
らせつが笑う。かがんで剣を振り切った姿勢のまま、ブラックが地面へ転げ落ちるのを満足げに見つめ………
と、
「………なに?」
不意にきらりと光るものがらせつの視界にうつった。それは何かの破片…鉄の屑の集合体…よくよく見てみれば、フォトン・ブラスターの銃身と銃把のようでもある。
理解よりは反応が先だった。ぞくりと身体に走った衝動、恐怖。それまでの不敵な態度がいっぺんに霧散して消える。
すとっ-----
頭から落下する直前だったブラックが、実に軽やかな音をたてて四つん這いになって地に降りた。にやりと笑みを浮かべている。
がしゃりがしゃりと、剣に断たれて二つに折れたフォトン銃の残骸がブラックのすぐそばに落ちた。
「へっ-----」
今度はブラックが笑う番だった。それは消えることのない、絶対的な余裕。
反撃が始まる。
ブラックが目の前に落ちた銃把を拾い上げ、ひょいとらせつの顔面へ放る。そしてそれを追って立ち上がり、駆ける。互いの距離は目算で5m。
「ンの…」
剣でそれをはたき落とし、続いて来るブラックに対して構えをとる。と、
「………っっっあ!?」
残骸のもうひとつ、銃身のほうがらせつの顔面へ迫ってきていた。反射的に剣を眼前まで持ち上げ、それをかろうじて弾く。
その間にはもう、ブラックはらせつの懐の内にいた。
「一つしか取ってないように見せる。フェイクにゃ昔っから弱かったっけな」
息がかかる距離まで接近して、にやりと笑うブラック。左手を差し出し剣柄をおさえ、空いた右手でらせつの鳩尾に拳を突き入れる。痛烈な衝撃がらせつの身体をくの字に折り、そのまま真後ろに吹き飛ばした。
どさ、と背中から地面に倒れ、あとは苦しげに呻くだけのらせつに、ブラックは卑下するような視線を投げかけ、立ったまま彼の顔を覗き込んだ。
「こんなもんか…失望だな」
唾棄しそうな雰囲気で、ブラックが言葉を吐く。さっきまでの剣呑な表情は何処かへ消えていた。
「お前はもうちっと賢い男だと思っていた。なのにこのていたらくは、期待はずれだと言わざるを得ないな。この十年近く、一体お前は何を学んで来たんだ? 家を飛び出し家族を捨てて、それで得たものはこれぽっちのこの程度か? 俺に腑抜けと呼ばれる為にお前は俺と離別したってのか?」
らせつが何言かいいかけたが、苦痛に阻まれて声にできていない。
「そもそも何で武器なんざ使ってやがる。情けねぇ…」
ばちんと、留め具が鳴る。何の音かとらせつが見上げると、ブラックの両手にえげつないリベット付グローブが填められていた。
「立ちやがれ。再教育してやる」
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