12.Hard meeting
うんざりしたように男は頭を振った。
「駄目だ」
闇色の瞳。鋭い双眸が刺し込むようにシルヴィを見据える。
漆黒の髪の、漆黒のいでたちの、漆黒の雰囲気の。壮年の男。
「なんでお前を置いてきたか全然わかって無ぇだろ。邪魔なんだよ…足手まといだ。一緒に行く、だ? 冗談じゃねぇ」
彼は怒っている。と直感する。…考えるまでも無いことだったが。
「何処ぞの洞穴にでも隠れてじっとしてろ。そしたらすぐにでも帰れるようにしてやる」
「私だって……!」
刀を抱きかかえ、シルヴィは懇願するような表情で声をあげた。
「私だって、戦えます! 連れて行って下さい!」
「駄目だって言ってんだろ」
ぴしゃりと遮る。男。
「でも…ブラック!」
再度彼女が声をあげると、ブラックと呼ばれた男は双眸の光を険悪気味に歪めた。
「黙れシルヴィ…なんなら動けなくなるまで叩きのめしてやっても良いんだぜ」
それを聞いて、ごくり、とシルヴィが唾を飲む。
「制御できない力に振り回されてるガキのくせして、一人前に語るんじゃねぇよ。良いか、俺が何で独りで降りたのか、その理由を考えてみろよ。今回ばっかりはマジで危険なんだ。いつもみたいにお前のフォローをしている余裕は無いんだ」
辛辣な、毒でも吐き下すような顔で。ブラック。
「災禍共が憎くて憎くてたまらねぇのは知ってるよ。殺して、跡形もなく根絶してやりたいと思ってるのもな。その為には多少の無理が必要になるのも、わかる。でもな、実力のともなわない強行は玉砕でしかないんだ。足下も見ずに前へ歩くようなもんだ…つまりは、愚行。馬鹿げた単発特攻兵だ」
「………そんな風に…言わなくたって……」
息を詰まらせながら、シルヴィが小さく漏らす。顔を伏し、もしかしたら泣いているのかもしれない。
「じゃあ何て言えと? これまで何回お前を咎めた? その都度わかりやすーく説明してやったってのに、お前はいっこうに理解しようとしない。この際だから…死んじまう愚行を侵す前に…言っとくがな」
ブラックが言葉を切った。一瞬躊躇うように歯噛みして。
「お前は未熟なんだ。いい加減自覚しろ」
「……!!」
びくん、とシルヴィの身体が大きく震える。つられて抱えている刀がかちゃかちゃと震え始めた。つぅ…と彼女の頬を涙が伝う。
「どっかに身を隠して、俺から連絡があるまでおとなしくしてろ。今回ばっかりはお前にはキツイ仕事なんだ」
うつむくシルヴィの肩を叩き、ブラックはくるりと振り返った。背後。セントラルドーム内部へと通じる転送機がそこにある。
「ま、そんなに時間はかからねぇさ。気楽に待ってろって」
片手をひらひら振って、背中越しにシルヴィへ声をかける。返事は無い。まだ泣いている気配がする。
「待てねぇよ…」
「………!?」
声。それはシルヴィのものではない。男の、聞いたような声。声は続く。
「……ったく、そうだよな…見覚えのある背中だと思ったんだよ。他に誰がいるってんだ…なぁ」
ブラックは…その声の主が誰なのか気付いた。瞑目するように目を閉じ、嘆息を吐きながら振り返る。
「…親父様よ」
黒髪、黒目。漆黒のボディスーツ。陰険な三角の眼差し、皮肉げに歪んだ口端。二十歳前後の男。
「…よう、息子様」
らせつだった。
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