11.Walk in the green wood
いつだってそうだ。物事が自分の都合に沿って動いたことなんか一度だって無い。
「クッソ…」
毒づく青年。不機嫌そうにつり上げられた双眸、歪んだ口端。険悪を人の顔に描いたらこうなるのだろう…そんな険しい顔つきをしている。もっとも、険しさの半分は彼の"地"だが。
「いつのまに離れたんだか、それすらもわからねぇんだよな…俺よか先行してるハズなんだが…」
ぶつくさ言いながら草地を進む。時折黒髪をひっかきながら。
彼の腰には真紅の剣が揺れていた。
「ま、とりあえず"奥"に進んだ方が良いか…きっとシルヴィもそうするだろうし」
転送機をこえた先は、まぁ…当然というか…やはり森だった。シルヴィの話によれば"先刻の爆発の中心地点"であるセントラルドームの近辺になるらしい。
いま聞いて確かめようにも彼女は居ないが。
本当に、いつのまにはぐれたかすらわかっていない。よそ見をして、前を見たらいなくなってた…それぐらいの唐突さで彼女の姿が消えた。で、しかたなく森の中をうろつき、偶然見つけた転送機を使って此処へ飛び、こうやってうだうだ歩いている。
「ま、そこかしこに…」
シルヴィが先行していると判断した理由、それは単に彼女が自分の前を歩いていたからではない。
幾つもの死骸が点々と目印のように落ちている。亀と、見たこともない巨大蟷螂やサイ。いずれも鋭利な刃物で無惨に断ち割られている。
「目印があるしな。違う誰かかもしれんが…人間なら助けになるかもしれねぇ」
進むにつれ、死骸の数が多くなってきているのがわかった。目に入る数が間違いなく増えている。
そしてそれらの死骸がまだぬめりのある生血に覆われているということもわかった。死後まもない、つまり、殺害者に近づいてきている。
「さっきの野郎みたいに問答無用でブッ放してこなけりゃいいんだがな…」
そろりと後頭部をさわる。あの男に殴られたわけではないが…なんとなく気になって、掌でコブ跡を撫でつける。
「にしてもあの野郎、次に会ったらしこたまぶちのめしてやらにゃあな。俺に銃口向けたことを死ぬほど後悔させてやる……」
刹那-----
「ほぉう…良い度胸じゃねぇか」
突如聞こえたその「聞き覚えのある声」に、らせつは目を白くして立ち止まった。
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