6.Stlay sheep
「待ぁちやがれぇぇぇっ!!」
セントラルドーム周辺の森林地帯-----森といってもあちこち整備され、庭園のようになっていたが-----のだだっぴろい野原を全力で駆けながら、らせつは前をゆく男の背中へ向けて声を張り上げた。
男はらせつと同じハンター用の黒いボディースーツ姿で、それは先刻ギルドより支給されたものに間違いない。つまり調査隊の生き残りという事になるのだが-----
「何ぁんで逃げんだよぉぉぉ!!」
どういうわけか男はこちらの呼びかけには全く応えず、ただひたすら、らせつの10m前方を走り続けていた。あたりの葉々がざわめく程の大声である、聞こえない訳が無い。
「畜生っ…俺は、敵じゃねぇって言ってんだろーがぁっ!!」
らせつと男、両者の走るスピードは殆ど変わらないらしく、10mという距離は一向に縮まる気配がない。幸いなのは男が真っ直ぐに走り続けているということだった。進路を変えられ深い茂みに入り込まれれば、その姿を見失うおそれがある。
(……なんていってるそばからぁっ!!)
男が不意に方向を変えた。人の頭ほどある小さな丘に挟まれた小道へと飛び込むように入っていく。
「くっそ……」
毒づきながららせつもその後を追う。男の姿が消え失せ、ただ道だけが続く……そんな光景を予想しながら、なかば諦めた心持ちで小道に入る。
と-----
「おや、まぁ……」
眼前に広がる光景に、らせつは喜悦の口笛を吹いた。
小道は奥行き3mほどで行き止まりになり、一番奥まった所で男が背中を向けて立ち止まっていた。
その様子を見て多少安心したらせつは、荒れた息を落ち着けるために大きく息を吐いた。呼吸を整えなるたけ表情を穏やかにして、誤解を受けないよう丁寧な口調で男に声をかける。
「とりあえず話を聞いてくれや…俺らは敵じゃねぇ。危害は加えないから落ち着いてくれよ」
…ハァ………
らせつに男が返したのは、投げやりに吐かれた溜息だった。
それを聞いて、かくん、とらせつの肩がコケる。
「………おい、なんなんだよいったい」
男はこちらに背を向けたまま腰に手をやった。らせつが訝りながらその手元を見やると、そこにはフォトン銃のホルダーが提げられている。ぱちん、とホックを外す仕草をして、銃把がその手に握られた。
(なに………!?)
バシュッ!
「危なぁいっ!!」
どがぁっ!
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