2.Death in the wood
第一次調査隊が壊滅したという報告はすぐにパイオニア2に届けられた。それを発信した隊員の末期の悲鳴、意味不明な唸り声とともに。
中央管制室がパニックになるのにさほど時間はかからなかった。
「何なんだ…ったく……」
森の一角、窪地のように凹んだ小さな空き地の中で、らせつは土の壁にもたれて傷の手当をしていた。
左腕に3つの深い裂傷、頭部にも裂傷、肩口に酷い打撲、右足首の捻挫。
骨に異常が無いのが幸いだった。軍支給の治療薬には骨折を直せるものが無い。
「オレ以外は全滅か……? 逃げた奴は他に居ないのかよ…」
薬-----モノメイトとかいったか?-----を摂取すると、全身の傷と痛みが嘘のように引いていった。これが『フォトン』の力というヤツなのだろう。原理のわからない物を使うのは気が引けていたが、今この状況ではひじょうにありがたい。
全身に暖かくしみるその薬の効果に身を委ねながら、らせつはそれまで肺に詰まらせていた溜息を一気に吐きだした。
「オレのチームの連中は…皆死んじまったよな……あれじゃ」
調査隊は申請順に4人ずつまとめられ、13組の"チーム"が編成された。一番遅かったらせつは当然13番目のチームに編入され、クレイ・ドール・デコイという三人のHUmarと仲間になった。意気揚々とラグオルへ降りていく彼らの後ろ姿はとても頼もしく見えたが、次の瞬間見えたのは彼らの死体となった姿だった。
今も彼らの断末魔が耳に残っている。
「……クソ…」
憤り、拳で地面を叩く。
「仇はとってやるよ…短い間だったが仲間だったんだ」
ぎしりと拳をきつく握りしめ、歯軋りしながらそう呟く。
……それに呼応したのだろうか……、
オォォォォォッ!!
先程嫌という程聞かされたあの唸り声をあげながら、らせつの目の前の茂みをかきわけて「あの化け物」が姿を現した。甲羅を背負った巨大な熊、立って歩く不格好な亀、ラグオル原住動物『バートル』。そんなモノが。
「ヘッ……匂い嗅ぎ付けて追っかけてきやがったか……」
辛辣に笑いながら、らせつはセイバーをひっ掴んで立ち上がった。殆ど復調した身体を確かめるように揺り動かし、緑色に輝くフォトンの剣を正眼に構える。
「上等だぜ、ブチ殺してやるよ!!」
化け物の唸りに劣らない大音響の怒号を迸らせ、らせつは猪のようにバートルに向けて突進した。
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