ふいに、背後に気配を感じて・・・
らせつは、後ろを振り返った。

立ち止まり、ちら、と後ろを見やる。

「・・・・・?」

が、そこには何も無い。
視線の先には、夜闇に包まれたロートサイアの街並みが続いている。
いつもと変わらない、いつもの風景だ。

「・・・・・」

しばし待つ。およそ・・・5分ほど。

が、何も起こらない。
誰かが物陰から出てきたり、何者かが襲いかかってくることも無い。
立ち止まったまま、彼の時間だけが無駄に消費されていく。

「・・・気のせいか?」

ひとりごちる。
もはや、これ以上ここに立ち止まっていることは 無駄以外の何物でもない。
彼は自分にそう言い聞かせると、ひとつ嘆息をついた。
随分と臆病になったもんだ・・・。 と、自分自身への皮肉をこめて。

「やれやれ、オレも年なのかね。
 まだ三十路にもほど遠いってのに」

呟く。
自虐的な言葉。
さして意味など無い・・・が、全く無意味かと言えば、そうでもない。

嘆息した後、らせつは静かに目を閉じた。

「まったく・・・どうかしてるぜ。
 あんたの気配を忘れるなんてな・・・夜叉?」

ひたり、と喉元に冷たい感触。
そして現れる気配・・・・・らせつのすぐ真後ろに。

疲れたように、らせつは目を閉じたまま再び嘆息を繰り返した。
けだるさにも似た嫌悪感を必死に堪え、
胸に溜まった不快な空気をゆっくりと吐き出していく。

「何の用だ・・・兄貴」


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