繁華街太郎


          <1>
夕方から眠るのは難しいなと思いながらも、
仮眠をとり目覚めたあとに、椅子がわりにしている
机のうえで煙草を吹かした。
一服して洗面所にいく。
誰かが使ったとおぼしきコンドームが、
風呂場の床に落ちていた。
幽かに、ニコチン臭くなった指でそれを抓むと
屑篭に投げ棄てた。
顔を洗い外に出る。夕方に雨が降ったのか、
道路は濡れていた。
「もっと濡らしてやる」俺は、愉快になって
陰茎を抓みだすと、道の真ん中で放尿した。
丁寧に陰茎を仕舞ってから、視線に気がついた。
「あんた、なに見てんのよぉ。ぶっ殺すわよ」
「別に。なにも見てない」
酔っているのか、女の目つきは、とろんとしていた。
「あっ、太郎じゃん。離山太郎でしょ?」
「そうだけど」
「あたしよ。あたし。梶原なつ美だよ。
覚えてないの?」
なつ美は、スカートを軽くいじって、明らかに太郎を
挑発している。
「覚えてねぇよ」
「しよっか?しようよ。いま全部脱ぐから」
全部脱ぐまで、黙っていた。
「じゃ、俺、人工島まで行かないといけないから」
素っ裸のなつ美に、そう言って手を振った。
なつ美の啜り泣きが聞こえてきた。
俺は、後ろを振り返らない。


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