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 ドアが開く。
 その向こう側には、眼下をうめつくす楽園の姿。
 ラグオルという名の楽園の姿があった。
 ここは、床全面がガラス張りの展望台。
 下をのぞけば、何とも言いがたい光景が目の中に、自然と飛び込んでくる。
 「ここにも、いねーな」
 少年は中に駆け込むや否や、開口1番そう言った。
 展望台には、あまり人影がない。
 つい最近までは、新天地ラグオルの姿をその目にみようと、多くの大勢の人々で、ごった返していたものなのだが、今ではすっかり閑散とした趣をかもしだしている。
 オブジェもなく、見えるものといえば、星空とラグオル。
 その光景も、あの事件のあとでもなければ、今とは別の感慨にふけれたことだろう。
 少年はまるで親の仇でも見るように、眼下の楽園を睨み据えているところだ。
 その視線はガラス越しにラグオルの大地を射抜き。
 まるで、この場からセントラルドームと、そこの住人たち〜当然、少年の父親のことだが〜の安否を、確かめようとしているかのようだった。
 「なあ、あんたは何故、ラグオルにこようなんて思ったんだ?」
 突然の質問。
 まるで奇襲のようなその質問に、青年は虚をつかれたかのように、目をぱちくりとさせてみる。
 ……理由?
 彼がここに立つ理由は、ごく単純で、そして……。
 「俺は親父に会いたかった。それだけのためにここにいる。でも、いまはただ、こんな上からイライラして眺めてるだけだ」
 ほぞを噛みながら、少年は静かに呻く。
 「ちくしょう……」
 ……理由……。
 心の中で、なんとなく呟く。
 ここに立っている理由。
 ふと、浮かぶのは「特にない」という単純な理由。
 さらに言えば、この船に乗ったのも、単純に彼女が誘ってきたからというものにすぎない。
 いや、それらも嘘。
 本当だが、嘘。
 ……ただ、そうただ自分は……。
 青年はなにかを振り払うように、静かに首を振る。
 「感傷なんてくだらない」
 それはだれに対してはかれた言葉だったのだろう? 


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