第七話 疲れて眠いのに・・・


「−−−−−−−−−−っ!!!!!」

瞬くように唐突に、視界と、意識が回帰する。形容しがたい強烈な嘔吐感、そして頭に抉り込まれるような痛み。覚醒して最初に感じたのは、ただひたすらに苦痛。悪夢から覚めた後も、悪夢を見続けるように。

目覚めた彼。フォールム・エル・リーヴァレスト。21歳、男。

「ああ・・・・・あ・・・あ? 夢・・・・・だったのか・・・?」

黒髪、黒目。端正で、淡泊な面持ち。

「それにしても・・・随分とまた現実味の有る夢だったな・・・・・。それもこれも・・・あのことの所為、だな、きっと・・・・・」

やれやれというように、もそ、と半身を起き上がらせる。
時刻は夜半過ぎ。月明かりが差し込んできているとはいえ、室内はひどく薄暗い。フォムは就寝前の記憶だけを頼りにサイドボードの上をまさぐった。ほどなくして、かつん、と手の甲が金属に触る。

しゅっ

掠れた音と同時に燃え上がったマッチを、金属の−−−というか、真鍮製の燭台の蝋燭に近づける。まだ炎の熱が僅かに残っていた蝋燭は、新しい熱に反応して再びちんまりとした火を灯した。

「まぁ、それは今は考えなくていい−−−さしあたっての急務は、"この街"だ−−−−−」

完全自由自治都市ゾルゲ。その名の通りソニア王家から完全に独立した都市、そして城。
自由故に王家と対等の交流、経済関係を持ち、法規的束縛から解放されているいわば一つの国。
そして自治故に王家の管理と庇護を受けられず、領主が没落した現在はゆっくりと崩れていくただの廃墟。

「孤児院は何処だ・・・・・?」

フォムが漏らす。と−−−−−

きぃぃぃぃぃ・・・

「!?」

物音。フォムでは無い。驚いてざっと室内を見回すと、風に押されるようにゆっくりと、部屋のたった一つの出入り口のドアが開いていく。

「億泰・・・・・?」

違うのはわかっていた。億泰であれば普通に開けて入って来るはずだ。
なら誰か・・・?
"無人の"この街に存在するものは果たしていったい何なのか・・・?

剣を引き寄せ、柄を握る。
形容しがたい強烈な嘔吐感、そして頭に抉り込まれるような痛み。
おそらく悪夢はまだ続いているのだろう−−−−−そう考えてフォムは苦笑した。

ドアが開く。



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