『夜叉』 第一話
「我は築く烈紅の尖塔!!」
ごかぁ!!
呪文の声。そしてそれとほぼ同時に立ち昇る紅蓮の猛火。天を衝かんばかりに轟々とそびえるその炎の尖塔の最中に幾人かの人影が呑み込まれ、灰燼と化して消えていった。
煌々と燃え盛る炎の明りに照らされたのは、まだ若い、怜悧な雰囲気のする男の顔・・・夜叉。
「我が右手より爆ぜよ蒼雷!!」
右手を前方へ掲げ、再び呪文を詠唱する。何も無い空間が突然弾け、突発的に集中した高電荷の『雷』が、堰を切った濁流のように方向性を持って空間を走った。
じゃちぃぃ!!
ほんの一瞬、瞬きする間に、雷は"標的"へと叩き込まれ、高圧電流によって生じた電子間の擦過熱が人間ひとりを炭に変える。表皮も体毛も、勿論衣服も全て焼け焦げて、炭化した人間は地面に落ちた時に、ごつん、という硬い音をたてた。
「我いざなうは終焉の巨孔!!!!」
どずん!!!!
振動・・・・・・、そして"吸引"。呪文に呼応して現れた直系1m程の"虚無"の塊が、周囲にあるもの全てを呑み込まんと、強大な"負"圧を開放する。さながら逆向きの台風のような様相で、虚無は何人もの人間をその闇の中へ落とし込んでいった。
「我は裂く大空の壁!!」
左から右へ。ふい、と振られた腕の・・・いや指の先から、不可視の鎌鼬が放たれて何人かの胴を分断する。びしゃぁ、と裂け目から鮮血が勢い良く飛び散り、辺りの地面を赤く染めた。
「我が左手に冥府の像!!」
夜叉の呪文は止まる事無く唱え続けられ、そしておびただしい数の死骸が積み重ねられていった・・・。
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