『来訪』 第一話


「着きましたよ、らせつさん」

「・・・ふえ?」

 言われて・・・それまで眠りについていた身体を、ゆっくりと起こす。辺り−−−しみったれた木造船の客室−−−を見渡しながら、ぼりぼりと頭を掻き、

「・・・ふえ?」

 ・・・いまいち、状況が理解出来ていないらしい・・・。どうやらひどく寝ぼけているようだった。

「だーかーらー! ソニアに着いたんですってば! らせつさんも此処が目的地だったんでしょう?」

「む〜・・・・・ああ、おおぅ、そにあ」

 あはは、と愛想笑いを浮かべ、らせつはようやく身体にかかった毛布を除ける。ゆっくりとベッドから降り、大きく伸びをし、ぼきぼきと背骨を鳴らす。

  「着いたんだねぇ・・・」

 ロー・テンションな、たいして感慨も無いような声。眠いせいもあるのだろうが・・・その声音からは、微かに悲しみのような響きが感じられた。まるで・・・引っ越しする子供のような。

「おお、おお♪ 結構賑やかだねぇ」

 だがそれはほんの一瞬で消え、今度は無邪気な笑顔で丸窓の向こうの町並みを、嬉しそうに眺めていた。小さな船の窓に、ほとんど顔を埋め込むように熱心にして。

「フフ・・・そうですね。なかなか良い町のようで・・・・・あ! そうだ、らせつさん!」

「・・・ん?」

唐突に大きな声で呼びかけられて、らせつが驚いた顔でこちらへ振り向く。

「船長さんが、『早く降りねぇとオレが海に蹴り落としてやる!』って息巻いてましたよ? もうまもなく此処に来ると思いますけど・・・」

「何ィッ!!?? どーしてソレを早く言わないッ!! さぁ、一刻も早くこの悪魔の船から脱出せねばッ!!」

「あ、船長さん、おはようございます♪」



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