『迷・迷宮へ』
あるダンジョンの 地下17階
「ちっ・・ちくしょぉぉ!!何時になったら出られるんだぁ!」
暗いダンジョンの中で、一人の男が嘆いていた。
自分の馬鹿さ加減を・・。
かつては「輝かんばかりの剣身を持った剣」で、あったと思われる
鉄の棒を握り締め・・・。
これ又「美しい装飾が施された鎧」で、あったと思われる
鉄の板を身に纏った男は、恨めしそうに何度も呟いた。
いつ終わるか解らない、迷宮の中で・・・。
その1
事の始まりは3日前の事だ・・・
「お願いです!もう頼る人もいないんです!」
まだ16にも満たないであろう少女は、何度も懇願した。
お世辞にも、綺麗とは言えない衣装を纏い
長い黒髪を後ろで束ねている。
身に付けた装飾品も、瑠璃色の髪止めだけ。
この地方の一般的な女性の服装らしい。
俺は、真剣に話しかける少女を前に、
ーーこの辺りじゃ美人なんだろうな、この子・・ーー
などと適当な事を考えていた。
無論、この子の頼みを聞くつもりは無かった。
旅の途中で寄っただけの村。何の義理も無い。
「ちょっとだけ・・ほんの2〜3階まで、調べてくれれば
いいんです!お願いします」
うっすらと涙を浮かべ、何度も懇願する少女。
既に断れない雰囲気が漂ってきた・・。
「そんな目で見るなよ・・・まったく、解ったよ!行けば良いんだろ?」
ーー今思えば、ここで断固断るべきだった。
始めから、乗り気では無かったのだから・・ーー
「但し、見てくるだけだ!その後は知らん」
「はい 有り難うございます、騎士様!」
少女は始めて、そのあどけない顔に笑顔を見せた。
「では、長老に会って下さい。詳しいお話があります」
そう言うが早いか、少女は俺を長老の元へ案内した。
満面の笑みを浮かべつつ、足早に・・・。
「騎士様か・・・ふふっ」俺は心の中で、そう呟いていた。
ーー俺は騎士では無い。ーー
無論、騎士を目指して修行に明け暮れた時もあった。
剣の腕も、その片の騎士共には負けない自信がある!
しかし、騎士の封建的な制度に嫌気がさして、
一人宛も無く旅に出た・・。
(人によっては、逃げたという奴もいるが。)
俺の武具も、その時「ついでに」失敬してきた物。
つまり「見せかけだけの騎士」と言う事だ。
旅先では「騎士」を名乗った方が、何かと優遇される。
特に田舎の村に行くほど、良い思いが出来る。
今回の様に、面倒な事に巻き込まれる時も在るが・・。
「おお、騎士様!よくぞおいで下さった」
50代半ばといった風情の長老を名乗るにはまだ若い
男は、満面の笑みを浮かべ俺の手を強く握りしめた。
満面の笑みを浮かべるおやじ・・見ていて気持ちの
良いものでは無い(しかも手を握られて・・・)
握られた手を早急に振りほどき尋ねた。
「で?大体の話はその子に聞いたが、具体的に何をすればいいんだ?」
「そ・・その話は夜にでも。先ずは、騎士様の来訪を歓迎する宴を・・・」
おやじは言葉も半ばに、宴の段取りの為その場を後にした。
ーーおいおい、急ぎの話ではないのか?ーー
とも思ったが、宴は俺としても大歓迎!
取りあえずは黙っておこう。
おやじの態度に、多少疑問を感じるが・・・。
この甘い考えが、自分の今までの人生最大の不幸になるとは、
この時は考えもしなかった。
2、そして宴会で
宴の準備の時の長老の動きは、常人のそれを遥かに凌駕していた。
村中を走り回るその姿は、まるで神龍のごとし!
一樽30キロはあろう酒樽を両脇に抱え、動き回るおやじ
・・・さすがに、牛一頭を抱えて来たのには、正直驚いた!
過去出会った最強のおやじ!
「お前は何者だ?!お前が居れば俺は必要無いのでは?」
そう感じながらも、俺はただ宴の準備を眺めていた・・・
宴の開始を楽しみに・・・
「騎士様、こちらも御試し下さいませ。自家製の野草酒で
御座います。」
「うちの持ってきた、紅鱒の香草焼も御試しくだせぇ・・・」
村人は次々に持参した物を、我先にとばかりに勧める。
俺は差し出されるままに、先ず酒を飲み干す。
苦いみと酸味のバランンスが絶妙!
「ん、なかなか旨いぞ!この酒は・・」
「流石は騎士様、いけますな!ささ、もう一献・・・」
こうして、村人総出で準備された宴は始まったのだった。
次々に勧められる料理に酒。
俺が正気を保っていられたのは、ものの数十分・・・。
ここから「俺の人生最大の不幸」へと転がり落ちるとは、
この時は気付くはずも無く、
ただ宴を楽しむ事しか頭には無かった・・・・。
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