『班長の死』


「これ、人間にも効くんじゃねーのかー?
 ヤマカガシさぁ〜、どう思う?」
 
「ひぃぃぃいいいい
 わ、わっかりません、ひぃいいひいぃ、うひぃ」
  
「そーか、そーか」
  
ガラガラヘビという名の男は、豪放に笑いながら
太い二の腕に、注射針をブチこんでいった。
  
夜が明ける頃...
うずくまっているガラガラヘビの頭の上に
一羽の白い鳩が、やってきた。
ガラガラヘビは死んでいた...
 
彼らの所属する『フラワーアンドスネーク』のなかで
なにか歯車が狂いはじめていた。



『フラワーアンドスネーク』が誕生したのは
南にある、シックスティ諸島のスプリングナンバーという
小さな田舎街の橋の上で
ヤマカガシとガラガラヘビが出会ったからであった。
彼らは何事かを話し合ったあと、行動を共にするようになる。
 
「1班〜6班はさぁ〜、もう全滅してるか消滅してるからさぁ
 おれたちは7班ってことで頑張っていこうぜ!」
 
「ああ・・・ OKOK・・・」
 
ヤマカガシは出鱈目で適当なことを言いながら
しきりに話かけているのだが
ガラガラヘビは、だるそうに答えるだけだった。
 
「ああそうだ、呼び名きめないといけないなー
 ガラガラヘビって呼ぶけどいいかい?」
 
「ああ・・・OKOK・・・」
 
ヤマカガシは『フラワーアンドスネーク』のなかで
本名を使うことを禁止し
花の名前か蛇の名前どっちかで呼ぶことを一方的に
決めていくのだった。
 
「班長はどうっすかなー
 ん?お前やりたいの?いいよ、わかったよ
 今回はお前に譲るからさ、そー怒るなって
 俺だってほんとはやりたいんだぞ!」
 
「・・・・・・・」
 
口数の少ないガラガラヘビという男が
どんな人間なのか
わかるのに、あまり時間はかからなかった。



ヤマカガシがその男に最初に出会ったとき
その男は、とてもだるそうに不自然な
格好で橋のうえに立っていた。
 
「お前、ダイジョブか?
 頭ダイジョブか?
 さっきから、ずっとそこに突っ立ったままで
 ダイジョブなのかよー」
 
「なにがだ・・・?」
 
「ちっ、だぼが」
 
そういって通り過ぎようとするヤマカガシを
男は黙って引き留めるのだった。
 
「おいお前・・・おれはな・・・
 ここ以外の空気は不味くて吸う気になれない・・・
 お前にそれが・・・わかるか・・・?」
 
「ちっ、だぼが」
 
なおも通り過ぎようとするヤマカガシを
男は黙って引き留めている。
  
「国に帰るんだな・・・
 シックスティ諸島は・・・お前のくるところじゃ
 ないんだ・・・」
 
「キミは何様のつもりなんだ?
 おれの血の半分はマラ人だぞ!
 気様ッ、オレと勝負しろ」
 
「かかってこいや・・・」
 
ちぇっ、しょうがねぇ野郎だなと言いながら
困っちゃうね、と更につぶやき
背の低いヤマカガシは、割と大柄な男ガラガラヘビに
首相撲をしかけ
打点の高いチャランボを繰り出していった。



一方的な肉弾戦だった。
無抵抗なガラガラヘビをヤマカガシは
殴り続けた。
 
「アガラ、ゲッチュー(てめぇ、この野郎)
 なんで反撃してこないんだよ?」
 
「お前が、ゴミだからだ・・・」
 
「そ、そんな、、、
 うっ、うっ、う」
 
ヤマカガシはしらないうちに、泣き崩れていた。
ガラガラヘビは、瞼をざっくり切られていたのだが
攻撃を受けるまえと、かわらない、まるで
何事もなかったかのような表情でそこに
立っていた。
泣き止んだヤマカガシは、俺たちふたりで
『フラワーアンドスネーク』を結成しようじゃ
ないかと持ちかけていくのだった。
 
それからしばらくして
ガラガラヘビは、どこかに行ってしまった。
 
「なんだよ、アイツ、、
 できたばっかなのに
 もう単独行動かよー」
 
まったく、まいっちゃうねと言いながらも
ヤマカガシもまた、どこかに行ってしまうのだった。
 
次に会ったときのガラガラヘビは
橋のうえで会ったときと、少し様子が違っていた。



どこかに行ってしまった相棒をよそに
ヤマカガシは、酒場で飲んだくれていた。
 
「酒でも飲まなければ、たまりませんですな」
 
誰かの口真似をしながら
ときおり、白目を剥いておどけてみせたり
しているヤマカガシを
まわりの人は気味悪がった。
老酒とホワイトロシアンで
ヤマカガシは、どんどん酔っ払っていった。
 
「お〜い、、ズベ公共、、
 よく聞くんだ、、もっと酒を、、、」
 
その時、ドアが開いた。
プロレスラーの覆面をしたガラガラヘビが
入ってきて
すっかり出来上がってしまっている
ヤマカガシを有無をいわさず
酒場の外に連れ出していった。
 
橋に近い空き地に
ヤマカガシを叩きつけると
鎖でぐるぐる巻きにし
 
「ちょっと、待ってろよ・・・」
 
と言い残して
ガラガラヘビは獣医院のある方向に
行ってしまった。
戻ってきたガラガラヘビは
手にスプーンや注射器を持っていた。
そして
焚火をしながら
チラチラ、ヤマカガシのほうをむいて
手を叩き、奇声をあげている。
ヤマカガシは震えていた。
 
「うほ、気持ちイイー」
 
同じ言葉を5回繰り返し
連続で注射針をうちこんでいった。
そのまま動かなくなった。
そうして、ガラガラヘビ
こと7班の班長は死んでいった。
 
とおくで朝の鐘が聞こえている。
 
「忘れへん、、」

  うめくようにそう言ったヤマカガシは
ぴょんぴょん飛び跳ねながら
近くの民家にいき
鎖をはずしてもらった。
おまけに、チューインガムまでもらった。
そのまま10分ぐらい噛み続け
かっこつけて吐き出した。
 
通学途中の子供達が
不思議そうに通り過ぎるなか
無言で穴を掘り続けた。
そして、どんどん冷たくなっていってる
ガラガラヘビの体を
土のなかに、横たえ
目をつぶり十字をきった。
溢れでる涙はぬぐわなかった。
 
 

-班長の死 完-
 
 
ソルニアの噂は
シックスティ諸島にもやってきていた。



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