BABY STAR DUST


0.Introduction

男はパイオニア2居住区画の一室でその『様』を見た。
特殊ガラスの窓の向こうに浮かぶ惑星ラグオルの緑珠。その表面に弾ける白い光。真っ白な光を。

「………爆発…?」

椅子に座っていた身体を立ち上がらせ、小さな角窓に張り付くように身を寄せる。
強い光の爆発はラグオルの大気表層を突き抜け、半天球のように大きく膨れていった。

「…交信用レーザーがシンクロする直前に光が弾けた。事故……か?」

爆発の音は聞こえない。空気のない宇宙空間では音が伝わらないが、あれだけ強い爆発が起これば衝撃波がここまで届いたとしてもおかしくない。むしろ衝撃波はこちらに届いているべきだ。が、宇宙軌道上のパイオニア2のもとには微風さえ達しておらず、船は穏やかに宇宙の海に浮いていた。
しばし考え、男はあれが化学反応的な爆発現象では無いと断定した。

「……微かだがフォトンの波動が感じられる。それも…ひどく濁ったフォトンが。あれは事故じゃないな」

………。

「気になる…な」

眼下の光が収まっていく。ゆっくりと、ゆっくりと。
光がしぼんだ後に残っていたのは、宇宙からでも確認できる巨大な建造物「セントラルドーム」。全く傷ついた様子も無く、先程までと同じように見える。まるであの爆発が幻だったというのか、その痕跡一つ見ることが出来ない。

コン、と男は窓を拳で軽く叩いた。

「気になる………が」

一介の移民である男には、惑星ラグオルに降りる術が無い。現状で唯一の降下手段といえば軍所有の小型シャトルのみ。

「…………」

男がちらと背後に視線をやる。
ベッド上に置かれた革バッグから、えぐいトゲ(リベット)が頭を覗かせていた…。



小一時間後。

『こんばんわ。パイオニア・ブロードキャスティングのエレ=マキエルです。先程行われた総督府での緊急会議の結果を報告します。タイレル総督は「軍内部、民間を問わず戦闘力をある人材を集め、地表に降下して現地調査を行ってもらう」という方針を打ち出しました。民間の参加志願者の手続きはパイオニア2内のハンターズギルドにて氏名とIDカードを提示し、しかるのち………』

総督府へと続く門の前。その付近の物陰で、男はその放送を聞いていた。
ぽかんと呆けて虚空を見ているその男の胸元には、らせつと名の書かれたIDカードが差されていた。


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