さらりと風が前髪をなびかせる。
 おだやかで、とてもやわらかいそよかぜ・・・。心地よい流れ。

「フッ・・・」

 笑い声。
 青年。

「誰も、オレを祝福してはくれない」

 皮肉げに笑う。ただ口元だけを、つり上げるようにして。
 黒い瞳は、何も浮かべていない。
 表情らしいものは、何一つ見えない。
 青年。

「ククク・・・まぁ、いいさ」

 みじろぎひとつせず、ただ虚空を見ている。
 前方。
 何もない、空間。
 闇。

 彼は何をしているのだろう。

「そう考えることが、すでに罪なのかもな」

 嘆息する。
 青年。
 諦めたように、視線を下ろす。

 罪。

「祝福などいらない・・・」

 吐き捨てる。
 表情は無い。
 感情が無いのかも?
 ただ立ち尽くしている。
 闇の中にひとり、
 青年。

「祝福などいらない・・・」

 二度。
 繰り返す。
 汚物に投げかけるように、
 卑しき者を見下すように。

「汚れて生きるコトしか、許されないんだよ、オレは」

 決意?

「別に誰かに誉められたくて、生きてるわけじゃない」

 結論?

「これは・・・そうだ。オレが、選んだ道」

 逃避?

「オレが、選んだ、道」

 欺満。

「泥にまみれて、生きていく・・・」

 彼のては、血で染まっていた。
 彼。
 うっすらと・・・
 
 消えゆく、風。



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