「・・・何者だ、テメェ・・・」

うらめしげに、こちらを見上げる男。
息を荒げ、か細く洩れるような声で、こちらに何言か言おうとしている。

男は全身が血塗れで、
まるで巨人に握りつぶされたかのように不自然にひしゃげていた。

「俺にこんな・・・ことが、できるなんざ・・・バケモノかよ・・」

もはや目は見えていないのかもしれない。
地面に無造作に仰向けに転がされ、その視線は虚空を泳いでいる。
もはや頭を動かす力さえのこっていないのか、
こちらへ向こうともしない。

「へっ・・・・・なんとか、言えよ。・・・色男」

男が喋る度、その口から泡立った生血が溢れ出た。
喉の奥からこみ上げてくる鮮血は、男の呼吸を著しく阻害する。
ふいに強く男が咳き込み・・・
そのせいで生じた肋骨の痛みにより、悶絶するような悲鳴をあげた。

・・・もはや常人が耐えられるものではないのかもしれない。



「・・・・・・・・」

彼・・・『夜叉』は、ただ黙ってそれを見ていた。
たいした感慨もなく、そうすることに意味などなかったのだが。

(意味、か)

もしあるとすれば・・・何だろうか。
人の死に様など、見ただけで気が滅入るものだというのに。
いや、ひょっとしたら・・・、
自分の気を滅入らせることが、その理由だったのかもしれない。
人殺しの自分というあさましい姿を、再認識させること。
自分が今どれだけ汚れているかを、自分自身に思い知らせるために。

そう考えると、笑いがこみ上げてくる。

何故だろう・・・?
可笑しい。
たまらなく可笑しい。
汚れた自分の姿?
そんなものは、とうに見慣れた。

「ククク・・・ほざいていろ、馬鹿共め」

なにもわからない奴等が、何を言う・・・?

「俺がなにをしようとしているか・・・考えもせずに」

何も考えずに、俺がこの状況に身を置いていると?
俺がそこまで無能だと?
俺が真面目だと?

「クソ食らえだ。馬鹿親父が」



ふと、足元を見ると・・・ 男はもう死んでいた。
剥き返したように、両目を見開いて。

「・・・・・何だ、もう死んだか?」

そっけなく、言う。
顔に残忍な笑みを浮かべて。


直後、高らかに爆発音が轟いた。



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