「ケヴィン、武術祭に出てみない?」
その話は突然だった
アイヴィスとたあいの無い話をしていた時
いきなり、彼女にそう言われたのだ
「しかし・・・私が勝てるか?」
「大丈夫、そんなのやってみなきゃ分からないわよ!」
勝てるかどうかを聞いているのだが・・・
「でも、武術祭って強い奴が多いのだろう?」
「なぁに男が弱音吐いてるの?
 既に参加登録はしてあるからね☆」
・・・参加しなかったらどうするつもりだったんだろう?
「ちなみに、名前はアイヴィスって事で・・・」
・・・納得


そして半ば強制的に出場させられたが
運が良いのか、大きな大会でないからか
私は順当に勝ち進んで、とうとう決勝まで来ていた
「ケヴィ・・・アイヴィス〜、頑張ってね〜☆」
観客席から聞き慣れた声が聞こえてくる
・・・祝杯はあいつのおごりだな
「それでは、武術祭決勝戦を行います!」
司会の声が会場に響きわたると
観客の声援が山彦の様に返ってくる
「Aブロックの強豪を倒して此処まで勝ち上がってきた
 期待の新人、アイヴィス・クラークゥゥゥ!!」
会場にアイヴィスコールが響きわたる・・・
当のアイヴィスは・・・あ、やっぱり恥ずかしがってる
「そしてこちらは・・・
 名刀を携えてチームKIGを仕切る剣士!」
・・・おや?
「狗愛ォォォ!」
私の目の前に現れたのは、なんと先日の剣士・・・
しかしこの前とは雰囲気が違う・・・
まるで針の様に鋭い雰囲気を全身にまとっている
「お前は・・・そうか、お前も剣士だったのか」
「・・・だからどうだと?」
「それならば・・・」
「始め!」
計ったかのような審判の試合開始の声に
真っ先に飛び出したのはこの前の剣士、狗愛
「くっ・・・」
早い・・・!
剣先が右に、左にと振れる
速さも力の入り具合も良いバランスだった
「避ける・・・しか・・・知ら・・・ないのか!」
攻めながら喋る狗愛、器用な奴だ
「そうでもないさ、ふふ」
狗愛の突きをすれすれで躱して
眼前で飛んで宙を舞い、狗愛の後ろに着地する
「貰った!」
私の右手の光剣が彼の背中を貫いた・・・様に見えた
「まぁだまだぁぁぁ!」
なんと彼は突いた勢いを利用して自分から全力で前に飛び
地面にキスするのと引き換えに襲いかかる剣から逃れた
「思い切った事を・・・だが!」
私はすかさず走って彼を仕留めようとする、しかし
「っ!!」
光剣を彼の背中に突き付けたその時
彼の剣もまた私の喉元に突き付けられた
「そんなに甘くはないんだよッ!」
そう言って彼は後ずさり、立ち上がった
「そう簡単にはやらせないという事か・・・」
・・・なかなか長引きそうである



「てぇぇぇっ!」
「負けるかぁぁ!」
試合開始から10分・・・
振り降ろした私と彼の剣が噛み合って互いに圧している
もはや観客は騒ぐ事を忘れ、試合に集中していた
「・・・ふふ、甘い!」
「なに!?」
私は足払いを掛けて体勢を崩させる
彼はそれをまともに受けてふらつく
「貰ったっ!」
「甘いのはそっちだよ!」
・・・なに?
一瞬私は目を疑った、彼が私の視界から消えたのだ
いや、正確には・・・
「こっちだ!」
私が反射的に左に向くと
そこには既に斬りかかる体勢の狗愛が居た
どうやらバランスを崩した左足の力を抜き
右足に全力を込めて左に飛びのいたらしい
「ちぃぃぃっ!」
私は慌てて剣を構えるが
力の入った一撃を受け流しきれずに軽く吹き飛ばされた
「・・・くぅぅぅっ・・・」
一、二秒だろうか・・・
気を失った私はそれでも無意識に立ち上がろうとしたらしく
片膝をつき、剣を置いて両手を地面に付けていた
「・・・はっ!」
再び気を取り戻して周りを見れば、彼は試合会場の真ん中にいた
「余裕・・・か?」
「倒れた者に追い討ちをかける気など無い」
なるほど、ね・・・
「そんな事がいつまで言えるかな?」
「・・・いつまでもそうだ」
「そうか・・・いくぞ!」
私はその場で力を込めて剣を振るう
普通の剣ならば単に空を斬るだけであろうこの行動は
しかしこの私の光剣では
空中を切り裂いて飛んでいくという性質を持つ
「光刃」を発生させることが出来る
「なんのっ!」
彼もまた、剣を振って向かい来る光刃を相殺する
・・・そうか、あの剣も光刃を・・・
「小細工は無用か・・・」
「当たり前だ!こちらから行くぞ!」
狗愛の剣撃は凄まじかった
私の技も彼に負けない力を持っていた・・・

だからこそ、この試合は・・・

「え、えぇっと、りょ、両者共に疲労が激しいので
 今回の武術祭は此処までとします!」
司会者の声が頭に響く
・・・引き分けか・・・
私は光剣を地面に突き刺し、それに凭れながらその知らせを聞いていた
「なお、今回は両選手とも優勝と言う処置を取らせていただきます」
観客席からは会場が割れんばかりの拍手が鳴り響いた
ふとアイヴィスの方を見てみれば、何故か泣きじゃくっている
「アイヴィス・・・と言ったか?」
対戦相手の狗愛が私に向かって声を掛ける
しばらく気付かなかった私は、二、三度言われてやっと気付く
そうだ・・・アイヴィスって事になってたんだな
「おい!返事くらいしろ!」
「・・・ん・・・あ・・・
 あ、ああ、何か言いたいことがあるのか?」
「・・・KIGに入らないか?アイヴィス・・・」
・・・はぁ?
「・・・良いけど、私の名前はアイヴィスじゃない」
一瞬凍り付く二人の間・・・
しばらくして口を開いたのは狗愛だった
「偽名か、何故かは聞かないが・・・
 それならそれで本名を教えてくれ」
本名・・・か・・・
「私はケヴィン・・・
 ケヴィン・・・・・・ソート、だ」
私は一瞬躊躇い、しかしすぐに吹っ切って名を告げた

この時既に私は過去を振り切っていたのだろうか・・・
忘れた訳でも、見て見ぬふりもしてはいないし出来もしない

しかし・・・確執に捕らわれて生きていく事は出来ない
それを教えてくれたのは・・・

私の目に観客席の有象無象の中で泣きじゃくる彼女が映る
粗野で荒々しいけれど、優しさと暖かさを持つ花・・・
思えば人に対する恐怖を取り除けたのも
・・・私が此処に立っている事も
彼女が居たからなのかもしれない


何故そうしたかは分からない・・・
だが、結局私はKIGに入る事にした


今、私はバー・ダリアの窓際のテーブルで
アイヴィスと酒を飲みながらあの頃を思い出していた
「何で[チームに入る]なんて言ったのだろうか・・・」
今となっては(気まぐれ)としか言えないが
それでもこの状況には満足している

そんな私の独り言を聞き流さなかった彼女は
酒で赤くなった顔を正して、優しく私に言った
「貴方が心を開いたからよ・・・」


第一幕[ケヴィン・ソート]終了



続く・・・可能性有り


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